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<書評>『句集 交叉』 自然の本質捉える独創性


<書評>『句集 交叉』 自然の本質捉える独創性 『句集 交叉』筒井慶夏著 朔出版・2750円
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 筒井慶夏の初句集『交叉』が上梓された。著者は「私たちは一刻一刻、何かと交叉しながら生きている。何気なく見たり感じたりしたことが、ふとした瞬間強く意識され五七五になる」と、その不思議に魅了され、題名にしたという。

 著者は復帰間もない沖縄で、紅型の筒描きと出逢い表現者の道を歩み出した。その後、俳句を始め、作句においては俳句会「天為」の故有馬朗人主宰の「沖縄の良いものを詠みなさい」との言葉に触発され、また、師の玉句から俳句の奥深さを教わり研さんを積んだ。

 俳人・対馬康子氏は、この『交叉』の序文に「慶夏さんの俳人格は沖縄の風土の中に永遠なるものを見ようと努めることによって形成されていった」「芸術を志す内面性によって描かれた風景は、写生でありながら沖縄という風土を超えて本質を直観する新しいアニミズムを感じさせる」と記している。

 沖縄の地ならではの風土や歴史・文化を平明に詠みつつも内面の本意を掘り下げる姿勢がうかがえる句をあげると《奇の数に整ふ馳走御清明祭(うしーみい)》《エイサーの果ては指笛月に吹く》《夕星や島の水鶏は木に登る》《太陽(ティダ)の門くぐれば古代落葉踏む》《王国は滅び蕊濃き藷の花》などがある。

 近年の世情を表した句に《地球暑し眼に馴染みたる戦の字》《虫送る虫も未知なるウイルスも》。また、悠久な自然現象と生き物とを取り合わせた《つちふるや駱駝に瘤のあるかぎり》や、諧謔(かいぎゃく)的な景の《ライオンがゐるかも知れぬ蚊遣焚く》。読者にまだ見ぬアフリカの夜明けの色を想像させる《アフリカの夜明けの色にオクラ咲く》。金子兜太、大串章両選者に選ばれ、毎日俳句大賞を受賞した《夏休み村の大樹を抱きに行く》の句も収められている。

 十七音の短い詩形の俳句は、季題や語彙を自在に使いこなし、豊かな感性や創造性も不可欠。そして、魂を揺さぶる根源的な生き方との関わりや自然の本質をきめ細かく的確に捉えた独創性が、この句集には具備されているのが読み取れる。

 (太田幸子・琉球俳壇選者)


 つつい・けいか 1947年徳島県生まれ。74年に沖縄へ移住、2001年「天為」入会。10年に第14回毎日俳句大賞、23年に第1回有馬朗人俳句賞優秀賞受賞。