潜り漁に密着取材
海人の仕事と聞いたら何を思い浮かべるだろう。夜間に行われる「潜り漁」もその一つ。海中を探索し、水中銃などの道具で魚介類を仕留める。名護市の屋我地漁港を拠点にする金城迅一さん(33)の漁に同行。良好な成果を記録することができた。漁の様子と海の魅力を紹介する。
昨年12月の夕暮れ時、名護市済井出の屋我地漁港から金城さんの船に乗船した。新月直後のこの日は「島ダコを中心に狙う」と言う。慣れた手つきで船を操舵した金城さん。GPSと陸上の地形を確認しつつ大宜味村沖のポイントに到着した。
島ダコ漁の技
投錨後、ウエットスーツを身に着け、空気ボンベ、ダイビングライト、水中銃など数々の道具を確認したらいよいよ潜水だ。一晩で空気ボンベ4本(この日の水深だと計約4時間分)を使用する。
約一時間後、落ち着いた様子で船に戻ってきた金城さん。身につけた網には全長60センチ以上、良型の島ダコを何匹も抱えていた。全体重をかけ、なんとか船上に引き上げる。島ダコだけでなく、アカジン(スジアラ)やマクブ(シロクラベラ)、アーガイ(ヒブダイ)なども混じっている。メインの魚種以外も発見した場合は捕るそうだ。ただし、魚類はセリでの価格が変動するので、低価格が予想される場合は狙わないという。
船上で一息ついた金城さんに、どうやってタコを探すのか? と聞くと「これは直感なんだよね」と答えた。
岩やサンゴに隠れ、擬態するタコは発見することが難しい。大型のものは力も強く、スムーズに捕獲するのは至難の技。捕まえても柔らかい体と腕を駆使し、手元から逃げ出すこともある。暗い海で一人、並々ならぬ集中力と判断力を発揮しているようだ。
海人が見る光景
小学生時代、将来の夢を聞かれれば「海人」と胸を張って答えていた金城さん。海人の父・清人さんの仕事を見て育った。漁業就業したのは8年前。見習いとして清人さんの元で働いた後、船を購入し独立した。
所属する羽地漁業協同組合の中ではまだまだ若手であるそうで、先達から学ぶことも欠かさない。最近は、同じく屋我地島在住の山里将成さんと漁に出たり、情報交換している。「海は漁業者にとっての畑」と語る山里さんは50代。近海の魚介類、海藻を熟知し、自身の親世代の漁も記憶している。海や沿岸の環境の変化について、知見を伝えることにも熱心だ。
「やりがいは何よりもあるよな」
漁港での談笑中、金城さんと山里さんはそう言って目を輝かせた。海中で遭遇した島ダコとガーラ(ロウニンアジなど)のにらみ合い、逃してしまったマクブ、コンクリートブロックを抱えて泳ぐ感覚だというシャコガイ、まれに出合うクジラ…。話は尽きない。
漁場では基本的に単独行動だが、海人たちには緩やかな仲間意識があることも教えてくれた。船の故障時や、サメの情報共有などさまざまな場面で助け合うという。
多種多様な海産物が水揚げされる沖縄県。海産物を味わうことで、食卓は豊かになり、地域の海人を応援できる。今夜は一品、県産の海の幸を選んでみてはいかがだろうか。
(津波典泰)
(2024年2月1日付 週刊レキオ掲載)