prime

<書評>『「守礼の光」が見た琉球』 米占領の正当性をアピール


<書評>『「守礼の光」が見た琉球』 米占領の正当性をアピール 『「守礼の光」が見た琉球』ボーダーインク編集部・編 古波藏契・監修 ボーダーインク・2640円
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 祖父母が脚のすねのことを“イチゴーセン”と呼んでいたのは「米合衆国一号線」(現国道58号)に由来していたのか!本書のとあるページに目を通していた時に、急に合点がいって一人笑えた。

 琉米親善レクリエーションやインフラ整備、女性の社会進出から教育の充実化まで、復興期の沖縄を切り取った美しいグラビアが満載のこの新刊。どのページをめくっても、幼い頃に祖父母が聞かせてくれた、想像の中にあった古き良き沖縄の風景を重ねることができ、懐かしさを覚えるような不思議な感覚に陥る。今は亡き祖父母との橋渡しをしてくれるような良い写真集だ、というのが第一印象だった。

 しかし本書は、米統治時代の沖縄で、米軍の心理作戦部隊が大衆向けに制作していたプロパガンダ誌である。当時の沖縄をさまざまな側面から記録した歴史的資料としての価値は認めつつも、それらが米国側の視点で切り取られ、占領の正当性とその恩恵をアピールするための媒体であることが、監修を務めている沖縄戦後史研究者の古波藏契氏による鋭い視点のコラムによってひもとかれていく。

 編集の過程で、当初の想定よりも説明や解説を手厚くしたということだが、その甲斐があって占領側はいかに県民生活が向上し、充実したものであるかを強調するため、写真や文章をたくみに操っていることが、読み返すほど手に取るように伝わってきた。

 私の祖父母にとって復興期は概ね良き思い出の多かった時期のようだが、家庭や個人によってその印象は実に千差万別だろう。まさにあとがきにもある「沖縄戦後史の複雑さ、割り切れなさ」がここにあるが、その理解につながる手助けをしてくれるのが本書であり、同時に、沖縄に生まれ育った私たち自身が抱える“複雑さと割り切れなさ”を理解する一助になるかもしれない沖縄人必読の手引書だ。復帰から50年以上経った今、我々の根底にある価値観は果たしてプロパガンダから完全に開放されたと言い切れるのか―。日々、自問自答している。

 (畠中沙幸・ブックパーラー砂辺書架店主)


 こはぐら・けい 1990年沖縄生まれ、博士(現代アジア研究)。沖縄国際大学や県立看護大学、名桜大学などの非常勤講師を経て、現在は明治学院大学社会学部付属研究所研究員。