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<書評>『琉球をめぐる十九世紀国際関係史』 東アジアの世界観から解明


社会
<書評>『琉球をめぐる十九世紀国際関係史』 東アジアの世界観から解明 『琉球をめぐる十九世紀国際関係史』山城智史著 インパクト出版会・3300円
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 本書は、ペリー来航(1853年~54年)と分島改約交渉(1880年)に焦点を当て、琉球をめぐる国際関係について、日本・清朝・米国の外交史料を駆使した研究書である。筆者は「これら三ヶ国が外交の場で琉球をどのように捉えていたのか、実際にどのように扱ったのか」と問題提起した上で、内実を明らかにしていく。

 これまでの研究では、琉球とペリーとの間で「琉米修好条約」が調印され、米国議会と大統領による批准・公布を根拠に、米国が琉球を主権国家と認めたとしていた。この点について本書では、米国の史料原文には「Compact(コンパクト)」として明記されていることを注視し、日米和親条約(Treaty)とは明らかに性質が異なると指摘した。米琉間の合意文書を史料原文にある「米琉コンパクト」と忠実に翻訳し、国際法や国際関係史の観点から、コンパクトとして調印・批准・公布されていることの歴史的背景を解明した。著者によると、当時の琉球がペリーと交渉し、結果として「条約」という強力な強制力を持つ不平等な枠組みを回避したことに意義があるという。

 本書におけるもう一つの発見として、分島改約交渉についても、実際に交渉に当たった清朝外交官の記録を分析し、日本・清朝側の史料と突き合わせて、清朝とロシアの外交問題との連動性を実証的に検証している。

 つまり本書は、西欧とアジアの衝突、国民国家という「近代」制度との関係性から、琉球沖縄史をグローバルヒストリーに位置付けた新たな学説を創造した。あとがきで要約されているように、「琉球の深淵なる歴史は主権国家というまだまだ誕生して間もない概念装置では捉えきれない、米国・仏国・蘭国が琉球を『条約システム』の中に組み込もうとしたが、すべて失敗に終わった。このような考え方が本書にはある。欧米が創造した世界観に東アジアを埋め込むのではなく、東アジアの世界観が独立して存在していると考える方が自然であろう」と。

 本書は今後とも時代と共に創造され続ける琉球沖縄史物語のマイルストーンとなるだろう。

 (比屋根亮太・南京大学国際関係学院助教)


 やましろ・ともふみ 1978年沖縄県生まれ。南開大学(中国天津市)博士課程修了、博士(歴史学)。名桜大学国際学部上級准教授。主な論文は「琉米コンパクトをめぐるペリー提督の琉球認識」ほか、共訳「現代中国と少数民族文学」など。