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<書評>『琉球王国から沖縄県へ よくわかる沖縄の歴史』 近代への世替わり描き出す


<書評>『琉球王国から沖縄県へ よくわかる沖縄の歴史』 近代への世替わり描き出す 『琉球王国から沖縄県へ よくわかる沖縄の歴史』来間泰男著 日本経済評論社・2860円
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 本書は、農業経済学を専門とする著者による通史シリーズの3冊目である。タイトルから分かるように、19世紀末から20世紀初頭にかけて、琉球が日本の「沖縄県」として政治的・経済的に統合されていくプロセスが通史で描かれている。「はじめに」には「読者を高校生レベルに想定して、わかりやすく書いた」とあるが、研究史への言及に多くの紙幅が割かれており、前提となる知識を要する内容も多いことから、初学者向けとは言い難い。ここでは本書の論点や研究史上の意義について述べる。

 当該期の重大事件である「琉球処分」について、本書では伊波普猷以来の研究史を踏まえつつ、日本政府による強権性を批判する言説は一面的であるとし、琉球の内部に近代化への動きが見られない以上、外からの強権・強圧による変革が生じたことは歴史的に必然であったと述べる。また、日本への帰属やその強権性を問題視する議論を「琉球独立論」にひも付けて疑義を呈する一方、1990年代以降の「琉球併合論」については一切触れられていない。初学者向けの書籍であれば、なおさら現在の状況を説明する必要があったのではなかろうか。

 他方、「琉球処分」後の旧慣期に関する評価は、本書の特筆すべき点である。1970年代後半の「安良城・西里論争」をはじめ、「旧慣」の評価をめぐっては社会経済史を中心に研究が蓄積されてきた。一方、本書ではあくまで政治的側面が優先されたことで旧慣が維持・存続されたと結論付けつつ、沖縄への資本主義(ないしは日本経済)の流入過程として「沖縄土地整理事業」前後の時期を描き出している。

 本書が描き出そうと試みた沖縄の近世・近代転換期(移行期)については、今後より多角的な研究の進展と併せて「分かりやすい一般書」の出版が待たれる。「おわりに」において著者が「(沖縄の)歴史学者」へ向けた「経済を踏まえない歴史はだめですよ」というメッセージを真摯(しんし)に受け止め、新たな史料と向き合うところから始めてみたい。

 (前田勇樹・琉球沖縄史研究者、琉球大付属図書館職員)


 くりま・やすお 1941年那覇市生まれ、沖縄国際大名誉教授。主な著書に「沖縄の農業(歴史のなかで考える)」「沖縄県農林水産行政史 第1・2巻」「沖縄経済の幻想と現実」など。