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<読書・BOOK>『奄美雑話 地理学の目で群島を見る』 古くて新しい課題を再認識


<読書・BOOK>『奄美雑話 地理学の目で群島を見る』 古くて新しい課題を再認識 『奄美雑話 地理学の目で群島を見る』須山聡著 海青社・1870円
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 本書は奄美群島に通い出して20年以上になるベテラン地理学者による現代奄美論である。これまで、歴史学、民俗学、経済学などから奄美を論じた専門書は多いが、地理学からの奄美論はあまりなかったと思われる。

 本書は著者が学生たちと一緒に奄美で観察や調査、議論をしてきた様々(さまざま)な事象の中から22のトピックを選び、それを4ページで論じる形を取っている。各トピックは地理学や隣接分野における新しい考え方や研究手法を用いた研究成果を基盤としながらも、著者自身のエピソードや感想を随所に散りばめた軽妙で分かりやすい文章とオリジナルの図表や写真で構成されており、テンポよく読み進められる。

 ところで、副題にある「地理学の目で群島を見る」とは、どのような見方なのだろうか。本書を読むと、奄美の自然環境から文化、社会、経済まで幅広い事象を多面的多角的に考察すること。集落、都市、島全体といった様々な空間とそれらを形成してきた時間の両面から論じること。各事象や課題は奄美に特有なものではなく、現代の島嶼(とうしょ)地域に普遍的に見られる現象と捉えて理性的に検討すること、だとうかがえる。そして、その見方から語られる奄美が、従来の奄美論とは異なる本書の大きな魅力となっている。

 この地理学の目で現代奄美を見ると、奄美の自然環境や文化景観、奄美社会の豊かさや魅力を普遍的に理解できると同時に、観光開発と自然保護、生活の都市化と地方都市の経済的衰退、奄美とナイチとの関係性など、奄美の古くて新しい課題を再認識させられる。各課題に対して、著者は具体的な、時には大胆な解決方法を示しており、これが議論のスタートになるだろう。

 本書で奄美について語られていることは、著者の指摘通り島嶼地域に普遍的に見られる現象とも言える。それなら、例えば本書を沖縄と比較しながら読むというのも大いにアリであろう。

 奄美そして島嶼地域の今を地理学の目から捉えてみるテキストとして、本書をお勧めしたい。

 (宮内久光・琉球大学国際地域創造学部教授)


 すやま・さとし 1964年富山県生まれ。駒澤大学文学部教授。博士(理学)。専門分野は人文地理学・景観論・離島研究。主な著書に「奄美大島の地域性―大学生が見た島/シマの素顔―」など。