prime

『続・沖縄戦を知る事典 戦場になった町や村』 日常の軍事化、破壊の過程


『続・沖縄戦を知る事典 戦場になった町や村』 日常の軍事化、破壊の過程 『続・沖縄戦を知る事典 戦場になった町や村』 古賀徳子、吉川由紀、川満彰編 吉川弘文館・2640円
この記事を書いた人 アバター画像 外部執筆者

 県内24市町村(南部、中部、北部、周辺離島・大東島、宮古・八重山の5部構成)それぞれの沖縄戦の経験を、県史・市町村史・字誌の記述を基に編み込んだ本書は、以下の三つの重要な点をもつ。

 第1に、各地域の戦況や被害状況を単に紹介するのではなく、その地域の成り立ちや主要産業の説明から生活の在り様をまずイメージさせている点。そこで営まれた日常が次第に日本軍第32軍の創設、県内外への疎開、十・十空襲、米軍の上陸、戦闘終了後の収容所設置などを通じて、日米両兵士による暴力を伴いながら破壊されていく過程を通時的に描くことで、1945年3月26日から6月23日までの沖縄戦そのものを扱うだけではなく、より長い時間軸の中で各地域が軍事化されていく様子を活写している。

 第2に、読者への導きを容易にするために、各市町村における個々の特徴を一言で表現することで、戦争がもたらす苦境を分かりやすく共時的に捉えている点。「軍事化する地域」南風原町、「住民を巻き込んだ日米交戦の地」浦添市、「軍民混在となった山の戦争」恩納村、「日本軍による住民虐殺」久米島、「戦争と飢餓」宮古島市などがその例である。

 第3に、県内で積み重ねられてきた地域史編さんの経験を土台にし、「沖縄戦を知ろうとすること」の意味付けを行っている点。全員が戦争非体験世代の執筆陣それぞれが各地域で張ってきた根を土台にする「はじめに」、既刊自治体史の「編者あとがき」から発刊当時の文脈を読み取ることで継承することの意味を浮き彫りにする「おわりに」は、本書の意義を私たちに強く感じさせる。

 ウクライナやガザ地区での悲惨な状況を目の当たりにする今こそ、戦争(軍事化)をどう根本的に抵抗し得るか。私たちも主体的に考えていくべきことである。沖縄戦を粘り強く問い続けることの意味を今一度噛み締めるためにも、沖縄戦を通時的・共時的にまとめ上げた本書は、ぜひともご一読いただきたい一冊である。

 (池上大祐・琉球大国際地域創造学部准教授)


 沖縄戦若手研究会 戦後生まれの沖縄戦研究者らで発足した「沖縄戦若手研究会」のメンバー28人が執筆した。古賀徳子、吉川由紀、川満彰が編者として共同で編集作業を担当。19年には「沖縄戦を知る辞典 非体験世代が語り継ぐ」を刊行した。