本書は2023年12月1日発行の詩誌『コールサック』116号での呼び掛けで集められた269人の詩、短歌、俳句を収録している。9章から成り、1章「被爆者の声」、2章「広島を語り継ぐ」、3章「長崎を語り継ぐ」、4章「沖縄を語り継ぐ」と進んでいく。
中里友豪さんの詩「沈黙の渚」の以下の箇所に深く頷(うなず)く。〈饒舌な平和に侵されて/いま日々の思念は瘦せ細る/平和の擬態/戦争でないから平和である/というおめでたい論理に与(くみ)してはならぬ/日常化される恐怖/漂白された感覚を目覚めさせるには/一つの記憶があれば十分だ/たとえば/宮森小学校ジェット機事件/死んだ幼い肉体の/黒焦げの肉のかたまり/あの肉のかたまりを/食卓の団欒で思い出すことはないか〉
高柴三聞さんの詩「白い鳥」は、戦中の教育の恐ろしさと、それを疑うことの大切さを説く。うえざとりえこさんの詩「泥の骨―七十九年目の慰霊の日に」は、未だ沖縄の地中には戦争で亡くなった人々の骨が、さらにはたくさんの不発弾が埋まっていることを想像させる。
名嘉真恵美子さんの短歌「この島のいたるところに基地はあるゲートを越えてまだ見ぬ草露」は、沖縄の土地であるのに基地に取られ、足を踏み入れられない地に思いを馳せている。謝花秀子さんの短歌「復帰の日を『記念日』と言えず五十年冷たい風に耐えいる民意」は、復帰が県民の願う形ではなかったことや、復帰してもなお変わらない沖縄の状況を憂いている。
6章は「アフガニスタン・ウクライナ・ガザ・世界は今」であり、今起きている戦争についての章を設けていることは、本書の特筆すべき点である。
9章「永遠平和」では、梅津弘子さんの詩「第二の基地県に住んで」は、沖縄に次いで基地を多く抱える神奈川について描き、丸田一美さんの詩「やがて 誰もいなくなる」は〈被爆者“0″の日〉が来ることを危惧している。
本書は来年には英語版が刊行される予定とのことだ。どのような反響が得られるか期待したい。
(トーマ・ヒロコ・詩人)
すずき・ひさお 1954年東京都生まれ。コールサック社代表、詩人、評論家。
ざんま・ひろひこ 1981年愛知県生まれ。
はじま・かい 1973年東京都生まれ。
すずき・みつかげ 1986年秋田県生まれ。