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【深掘り】インボイス開始1週間 事業者から根強い不安の声 価格交渉の「歩み寄り」課題に


【深掘り】インボイス開始1週間 事業者から根強い不安の声 価格交渉の「歩み寄り」課題に
この記事を書いた人 Avatar photo 普天間 伊織

 消費税のインボイス(適格請求書)制度が1日に開始され1週間がたった。これまで免税事業者だった個人事業主や中小零細企業は、制度導入後も課税事業者として登録せず、業務を継続することも可能だ。だが、発注元が消費税の仕入税額控除を受けられなくなるため、取引を見直されることへの懸念も広がっている。事務作業などの手間がかかる上、物価高などに直面する事業者からは「煩雑な手続きの上、お金も出ていく」と根強い不安の声も聞かれる。

 インボイスを巡っては、発行が消費税の納税義務がある「課税事業者」に限られていることが大きな問題となっている。売上高1千万円以下の零細の免税事業者が、課税事業者に転換してインボイスを発行しようとすると税負担が生じる。

 免税事業者のままでいることも選択できるが、発注元は原則として、免税事業者からの仕入れにかかった消費税額を差し引いて国に納税することができなくなる。こうした事情から、発注元から取引を減らされたり、値引きを迫られたりする恐れがある。

「廃業増える」

 フリーランスが多いエンターテインメント業界。登録を見合わせている演技講師の男性は「名指しでオファーを受ける仕事でもあり、単価も安いのでそこまで大きな影響はなさそうだ」としつつ「今後どうなるか心配だ」と吐露する。

 課税事業者に転換したものの、経営圧迫を訴える人も。ダンススタジオを経営する女性は「大手商業施設や企業と契約を結ぶ上で登録番号が必要になり登録したが、物価の高騰で出て行く金額が増える中で経営はさらに苦しくなる」とため息を漏らす。

 畜産農家は、子牛の競りやファーマーズマーケットなどでもインボイス登録の有無が表示されることから、購買者からの買い控えの恐れも指摘されている。飼料原料価格の高騰や燃料高騰で経費がかさむ中、インボイスがさらなる経営圧迫につながるとの声が上がる。

 昨年登録したうるま市の畜産農家の女性は「登録していない農家は今後、子牛の買い控えや購買価格を低額に抑える動きの影響を受けるだろう」と話す。「登録したとしても消費税納税の負担がくる。このタイミングで離農や廃業が増えるのではないか」

「社会全体で」

 取引先への対応に頭を抱える事業者も出ている。飲食業を営む男性は仕入れ先の農家に対してインボイス登録を求めているが、高齢の農家や小規模生産の農家も多く「手間もかかることだし、強制はできない。催促をする方も心苦しい」と心境を吐露する。

 インボイス制度導入で揺れる事業者に対し、県よろず支援拠点コーディネーターとして経営者の相談を受ける税理士の當間健一さんは「主要取引先が事業者か消費者か、登録の有無が売り上げにどれほど影響するかなど、納税額や経理作業の負担などを含め検討する必要がある」と指摘する。

 當間さんによると、人件費やエネルギー経費も高騰する中、税を含めた負担の「価格への転嫁」が今後の課題だという。「発注側と受注側の双方が歩み寄って価格交渉することが重要だ。お金は血液のように社会を流れており、どこかに生じた負担のしわ寄せは企業、下請け業者、消費者のいずれかに必ず降りかかってくる」と述べ、インボイス制度が及ぼす影響の緩和に社会全体で取り組むべきだとの見方を示した。

 (普天間伊織)

事務負担大、消費活性化も
獺口浩一氏 琉球大学教授

 消費税を巡っては、正確かつ公平な形で仕入税額控除を実施することは非常に重要だ。日本では長年、基本的に帳簿方式が採用されており、正しく仕入税額が控除されているかが疑問視される面があった。

 複数税率の導入後は、区分記載請求書等保存方式が導入され、欧米のインボイス制度に近づいた。一方、課税事業者が免税事業者から仕入れを行っても仕入税額控除が可能だったため、以前から消費税の課題とされてきた益税の問題(消費税分が免税事業者の利益となる)が引き続き生じるなど、課税上の公平性が損なわれる課題があった。

 インボイス制度の導入で(1)より正確で公平な仕入税額控除(2)益税が改善・解消(3)インボイスに基づく税務調査―などが可能となり、消費税における課税の公平性が確保できるという意義がある。

 一方、経過措置があるものの、いずれは免税事業者の事業継続が難しくなる側面があることや、免税事業者との取引が多い課税事業者の事業継続に支障が出かねないことなどの課題もある。

 インボイス発行・保存など事業者側にかかる事務的な負担が大きいことも課題だ。働き方の多様化で個人事業主が増加傾向にあるが、事業者間取引を行う個人事業主にとってはこうした負担が重くのしかかるだろう。

 県内は中小零細事業者が特に多く、こうした負担に頭を悩ませる事業者が多いことが考えられるが、課税上の公平性が全体に行き渡ることで事業者間の公正な競争環境が整い、消費活動が活性化される側面もある。

 (財政学)