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<ジャングリア課題と展望>「数を求めないとダメだ」 北部の“素通り”打開へ高まる期待 渋滞対策に「船」案も(下)


<ジャングリア課題と展望>「数を求めないとダメだ」 北部の“素通り”打開へ高まる期待 渋滞対策に「船」案も(下) 北部テーマパークへの導線の一つとなる名護市宮里の国道58号=2日、名護市
この記事を書いた人 Avatar photo 謝花 史哲

 名護市と今帰仁村にまたがる嵐山ゴルフ場の跡地で整備が進む新テーマパーク「ジャングリア」。大型の観光施設に、本島北部の長年の課題だった滞在期間の短い「素通り観光」や、本島中南部との経済格差を解消できるのではないかとの期待が高まっている。運営会社ジャパンエンターテイメント(JE、名護市)は最低でも年間約150万人の集客を見込むが、テーマパークの立地による交通渋滞など周辺地域への影響への懸念もつきまとう。

 2018年8月に事業の準備会社が設立され、23年2月に着工されたが概要はベールに包まれていた。ブランド名やコンセプトを発表したのは、目指す開業まで2年を切った23年11月。開業日に認知度をピークにすることを狙うマーケティング戦略があった。

 「10年先まで考えて取り組んでいる」。同社の加藤健史CEOはジャングリアを核とした北部発展の将来像を描く。

回遊を促す

 「一番集客力があるコンテンツは、なるべく奥に置くことが重要だ」。USJやディズニーランドを例に、加藤CEOはパーク内を長く回遊してもらうための導線設計を解説。ジャングリアの立地には、この視点が入っていることを明かした。

 島しょ県という閉ざされた空間で、南側に玄関口がある沖縄。沖縄美ら海水族館は集客力が高いが、現状の滞在時間では「まだ回遊を促すのに十分でない」(加藤CEO)。
 「もし北部に6時間、半日と過ごす装置があれば、北部だけでなく本島全体の回遊動線を促すことになる」。滞在日数を延ばす効果があるとして、北部で開発することの意義を強調した。

 概要発表時期は逆算した。早すぎてしまうと、開業に向け期待度を高めるための追加コストが必要になる可能性に言及し「行きたいと思う意欲を高めさせる期間として11月が最適だった」と振り返った。

交通量は1割増

 沖縄総合事務局はパーク開園で、名護市内のアクセス道路上に主要渋滞交差点が存在すると分析し、観光客の増加で交通混雑の悪化が懸念されると見通す。特に国道58号線の白銀橋(東)と大北5丁目で、白銀橋(東)は1日2300台増えると予測する。
 21年度の2万1844台(道路交通センサスより、推定値)と比較した場合、約1割交通量が増えるとの推計だ。交通需要の増加が予測される交差点4カ所で、計約6千台増えると分析している。

 許田インターチェンジから海沿いの世冨慶交差点にも車が集中することが見込まれる。世冨慶交差点は北向けが2万8798台で白銀橋よりも多い状況だ。

 加藤CEOは数年前から第三者機関を入れ独自に厳格な交通量調査を続け、課題に向き合っているとした上で、美ら海水族館の誘客力に触れ「同じ客層が立ち寄るだろうと見ている。滞在期間が増えるだけで、既に実績はあり、現状は大きな問題が出てくるとは思っていない」と説明。開業後に発生する交通渋滞は、現在の延長線上との認識を示した。

インフラ整備

 県内経済界からは「沖縄の全体の起爆剤になることが大事だ」と期待の声が上がるなど、多くの関係者が事業の動向を注視している。整備工事に参画する大米建設の下地米蔵会長は、交通課題の解決について「インフラ整備が重要になってくる」と指摘。県全体への波及効果を展望した。県内でバス、タクシー事業を手掛ける第一交通産業(福岡市)の田中亮一郎社長は、渋滞対策として二次交通に客船の利用を思案し、交通利用の広がりに期待する。「1回で百数十人が乗れる。那覇空港から発着できる仕組みをつくれたら利便性は高まる。やり方はいろいろあると思う」

 新型コロナウイルス感染症の影響が収まる中、県内観光客数は再び年間1千万人へ迫る勢いで回復を続けている。

 加藤CEOは「10年スパンで見た場合、観光客は1・5~2倍になることは起こりえる」と指摘。パーク運営について「数を求めないと駄目だ。集客力が増せば、当然、高速道路延伸や鉄軌道が必要になってくる」と行政への働きかけに意欲を示した。

 アジア展開への試金石に位置付けられるジャングリアのプロジェクト。地域の発展は重要な指標となり、事業成功の鍵を握る。働き口の増加に伴う定住促進や所得向上、インフラ整備などへつなげられるか。テーマパークを中心としたまちづくりに注目が集まっている。 (謝花史哲)