今帰仁村と名護市にまたがる「オリオン嵐山ゴルフ倶楽部」跡地に整備が進む新たなテーマパークのブランド名やコンセプトなどが27日に発表された。新テーマパーク「UNGLIA(ジャングリア)」」が目指すのは、やんばるに広がる森林の大自然を満喫する贅沢感と没入感。開業時の面積は60ヘクタール、想定される投資額700億円の規模感に、県内観光への「インパクトは大きい」と波及効果を期待する声が上がる。一方、渋滞や北部観光の一極集中など懸念材料も多く、2025年夏の開業までに取り組むべき課題は山積している。
北部にテーマパークを建設する構想が持ち上がったのは11年前。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)が検討を進めたものの、16年に撤回した。一度は頓挫した事業だったが、USJを再建した森岡毅氏がコンサルティング会社「刀」(大阪市)を立ち上げ、再構築を図り今年2月の着工までの道筋をつくった。
地元対策と成功への確信
失敗した原因は、県外資本による一方的な事業だと想起させた点にあったという。発表会見で森岡氏はUSJ在籍時に事業立案に関わった経緯を振り返り「結果的に地元の人にとって、上から目線と見えていたように思う」と反省を口にした。
再始動では準備段階からオリオンビールとリウボウ、ゆがふホールディングスの県内資本を入れた。そのほか、県や名護市、今帰仁村と連携協定を結ぶなど「沖縄と一緒につくっていく事業」を掲げ、計画を練り上げた。
「世界一の観光の潜在力がある」。やんばるの大自然の魅力の活用と、「パワー・バカンス」という自然の中の贅沢感の演出の2点を成功の条件に掲げる。
300万人程度とされる美ら海水族館(本部町)の年間来場者の「半分で十分採算が取れる」と分析し、地域への波及効果に自信をのぞかせた。
高まる期待の一方で…
新型コロナウイルス感染症が広がる前の2019年に沖縄への観光客数は年間1千万人を超えた。コロナ禍が落ち着き、順調に回復する観光需要に加えての新たな観光施設開業に、関係者からは県経済の底上げにつながると期待が集まる。
ただ、コンセプトが発表された一方で、来場者数の目標や従業員の採用計画など運営や集客の在り方については具体的な説明はなかった。
明示した2025年夏の開業まで約1年半。渋滞の深刻化が不安視される中で、アクセスの方法を構築することが急務となる。
雇用は千人~1500人規模を想定。観光業界では人手不足が叫ばれており、地元の経済関係者からは「雇用で人材の奪い合いにならないか」という声が上がるなど、懸念もつきまとう。
「情報量は少ない」
「情報量は少ない」。北部で観光業に関わる関係者は、こう指摘する。運営会社は1日限定のチケット制で滞在時間は半日程度を見込んでいるが、「観光客の滞在はテーマパークだけで終わってしまうだろう。長い目で見ると北部に滞在型が構築されるかもしれないが」と〝素通り観光〟を懸念する。
開業時の面積60ヘクタールはUSJに匹敵する規模だ。ただ投資額700億円は、USJの一部にできた新エリア「スーパー・ニンテンドー・ワールド」(建設費600億円超)と比較してみると、世界観をどう作り込むのか不透明な部分もある。
周辺の観光施設にも観光客が安定して周遊する仕組みや交通インフラ整備など、相乗効果を生み出すための戦略や取り組みが見えづらい。
関係者は経済波及効果を予測しつつも「小さな地域に大きな企業が来る。結果を待ってから対策を講じるというわけにはいかない」と指摘した。大型事業には地域の協力が不可欠だ。沖縄観光の新たな目玉として完成度を高めるには、適切な情報開示と公共政策との連動性が鍵を握る。
(謝花史哲)