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黒糖から「人工革」開発 アナンティア、新産業に期待


黒糖から「人工革」開発 アナンティア、新産業に期待 バクテリアナノセルロースを活用したビーガンレザーの研究開発に取り組むアナンティアの伊江玲美代表(左端)ら=3月26日、恩納村のOIST
この記事を書いた人 Avatar photo 玉寄 光太

 沖縄科学技術大学院大学(OIST、恩納村)イノベーションインキュベーター内に拠点を構えるバイオのスタートアップ(新興企業)、アナンティア(伊江玲美代表)が、バクテリアが作る繊維成分のバクテリアナノセルロースを使用した人工革「ビーガンレザー」の研究開発に取り組んでいる。石油由来の樹脂を使わないビーガンレザーの開発は世界でも珍しいという。製造には廃糖蜜を活用し、2021年から課題となっている県産黒糖の余剰在庫の解決や、新たな産業として期待が掛かる。

 伊江代表は元々、イタリアに本部がある国際NGO組織「スローフードインターナショナル」の日本代表を務め、農業者支援や後継者課題の解決のため活動してきた。コロナ禍で自身が興味を持てることを見つめ直し、健康的な食材を追求しようと沖縄で発酵飲料の研究を開始した。

 その過程で、黒糖や茶などを発酵した際、液体表面に膜ができることに気づいた。その膜は、発酵時にバクテリアが作り出した細胞壁の主成分でもあるセルロース「バクテリアナノセルロース」だった。伊江代表は「これを使用して何か作れないか」と、人工革の研究開発に主軸を移した。

液の上部にたまったバクテリアナノセルロース
液の上部にたまったバクテリアナノセルロース

 茶やニンジンの葉など亜熱帯植物の抽出液と黒糖を混ぜた液体に、特殊なバクテリアを入れて発酵させ、膜を張ったセルロースを取り出して乾燥させる。独自の技術でそのナノセルロースをビーガンレザーとして加工することに成功した。完成品の感触は本革と遜色なく、強度も高い。財布やジャケットなどへの使用も見込めるという。

 黒糖の売れ残りを廃棄せずに有効活用につなげられるとし、今後は大量生産を実現させ、国産車のシートやハンドル部分への使用も視野に入れる。沖縄は温暖な気候で発酵にも適していて、黒糖も豊富にあり「ビーガンレザー製造にはぴったりだ」という。

 そのほか、ナノセルロースと食品残さを使ったバイオプラスチック、シークヮーサーの皮とラードを使った石けんの開発も手掛ける。「消費されているものだけが価値があるのではない。次世代のためにも未利用資源を使った産業をつくりたい」と目標を見据えた。

 (玉寄光太)