ページ: 1 | 2
琉球ゴールデンキングスの支持基盤の底力とも言える「入場料収入」は10億1466万円と断トツの首位で、B1の1チーム平均の4倍近くに上る。2番目に多い「千葉ジェッツ」でさえ5億8766万円で、キングスは抜きんでている。
キングスの歴史を語る上で外せない“生みの親”木村達郎前社長をはじめ、米プロバスケNBAのニュージャージー・ネッツで運営実務の経験がある安永淳一GM(ゼネラルマネジャー)らコアメンバーが、最前列チケットが何十万円もする米NBAを目指し、観戦の「価値」を落とさない経営を心掛けてきた。
チケット優先購入権などがあるファンクラブの加入者は1万人を超え、会員数でもBリーグトップクラス。ホームの「沖縄アリーナ」の全約8500席のうち2千席はシーズンチケットとして既に埋まっている。
◆沖縄アリーナでファン拡大
元々、リーグ上位だった入場料収入をさらに押し上げた節目は、21年の沖縄アリーナの開業だ。開業年度にキングスの入場料収入は初めて全チームで首位に躍り出た。アリーナ完成前にホーム戦の収容可能な観客数は3500人程度だったが、アリーナは8500人と倍以上に増えた。「体育館はスポーツをする場だが、アリーナは観せる場」(白木社長)。離れた席からも試合の様子やリプレーが鮮明に見られる大型ビジョンや高品質な音響、照明などを備えてエンターテインメント性が格段に上がり、ファン層を広げた。
「アリーナ構想」は、木村前社長が07年のチーム創設当初から掲げていた。09年に本場米国でNBAを観戦した後、木村氏はコラムにこう記した。「ホームアリーナを持つことは夢のような話だ。しかし単なる夢ではなく、切実な経営問題でもある」
唱えてきた構想の節目は14年。スポーツコンベンションによる活性化を目指した桑江朝千夫沖縄市長が1期目の選挙で1万人規模のアリーナ整備を公約して当選。翌15年、キングスは沖縄市を「ホームタウン」とする。アリーナは防衛省と内閣府の予算を活用し、沖縄市の所有施設として21年に完成した。
◆「スイートルーム」新たなビジネス接待の形
沖縄アリーナでもう一つ特徴的なのは、合計30部屋に上る「スイートルーム」の存在だ。これは県外にある他のアリーナの特別席の数より圧倒的に多い。スポンサーやパートナーなど有力企業の経営者たちが、この部屋でビジネス接待や交流を目的とした観戦で使うようになった。部屋での飲食の消費額も大きく、「収入のうち結構なボリュームを占める」という。白木社長は続ける。「ゴルフや夜の繁華街に加え、新たなビジネス接待の形を生み出した」
収入構造の多様化は、チケット価格の戦略的設定も可能にしている。最も安いチケットは1人2千円台と、プロスポーツでは低価格だ。筋金入りのファンだけでなく「友達を誘って見に行ってみよう」といった初心者層も来場し、新規顧客の開拓を続けている。
だが沖縄アリーナに訪れる「初心者」の多くは単なる初心者ではない。「沖縄は『バスケ王国』。多くの人が小さいころからバスケをしたり、見たりしている。少なくとも試合の見方は分かっている人が多い。ライト層も楽しめる土壌がある」(白木社長)。「プロスポーツ不毛の地」と言われた沖縄。その中でも経営陣は「バスケの可能性」を見い出していた。
(島袋良太)
(島袋良太)