県建設業協会は10月10日に女性部会を発足させた。発足を記念し、「建設産業女性定着支援ネットワーク」の幹事長を務める須田久美子氏(鹿島建設土木管理本部専任部長)が講演した。その要旨を紹介する。
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私は建設産業で40年以上働いてきた。男女雇用機会均等法で女性の入社が増えた世代は20~30代。鹿島建設でも少しずつ増えてはきたが、土木系女性技術者の割合はまだ5%程度だ。
働くきっかけは大学3年の夏、先生に現場のアルバイトを紹介してもらったこと。目の前でどんどんものが出来上がっていく魅力が「天職」だと思った。ただ実際に入ったら「土木現場は時期尚早」ということで技術研究所に配属された。そのうち現場に出られるかと思ったが、結局23年間、コンクリートに関わる研究者として過ごした。
せっかくゼネコンに入ったからには現場に行きたかった。「何か他にさせてほしい」と頼んだら、設計の担当に異動した。裏高尾橋工事の現場所長が「現場に出てみないか」と言ってくれて、40代後半で初めて現場に出られた。すると現場がいろいろ回ってきて10年間現場を回ることができた。
それまでは「このまま現場に出られないのか」と、辞めたいと思う危機もあった。短気を起こさず、上司を説得して設計部門に異動させてもらったのが良かった。研究所で得た技術開発の成果を、違う立場で現場を眺めることにより、どう活用できるだろうという視点も身に付いた。
二つ目の現場では女性土木技術者の交流会や研究もした。2014年には会社の仕組みとしての土木系メンター制度を女性総合職からスタートさせてもらった。
10年間の現場勤務で印象的な女性に数々出会ってきた。同年代の鉄筋工の女性は子ども2人を抱えて離婚したシングルマザーだった。どう生きていくか悩み、子どもを早朝に預けて働ける鉄筋工を選び、私が会った時にはベテラン技術者として若手を指導する人になっていた。
2人目は地盤改良工の職長。「私1人のためにトイレを作るな。経費の無駄だ」と言っていた。だが国交省の発注工事で快適トイレが設置され、臭い対策などもした。すると彼女に「今までトイレ一つにこんなにストレスを抱えてきたのかと初めて気付いた」と言われた。「要りません」と言うから設置しないのではなく、使いやすいものを使ってもらい、仕事に集中してもらうことが大事だと気付けた。
最後はコンクリート圧送工の母娘。東京湾アクアライン工事の担当所長に能力を買われて現場に入ったが、トンネルの内側は「(女性は坑内労働ができない)法律があるからあなたには頼めない」と言われて悔しい思いをしたそうだ。
現場で土木技術者として働く夢がかなった10年だったが、一方ではいろんな現実を実感した。鹿島建設の女性社員が働きやすくなるだけでは、現場は働きやすくならないと実感した。ネットワークを設立できたおかげで、女性の意見を建設業の行動計画に反映できるようになってきた。女性が働きやすいということは、全ての人が働きやすいということ。建設産業に若い人たちが入ってくることを目指して活動している。
(随時掲載)