prime

はるのひ 安里拓也(株式会社さびら 平和学習講師) <未来へいっぽにほ>


はるのひ 安里拓也(株式会社さびら 平和学習講師) <未来へいっぽにほ> 安里 拓也
この記事を書いた人 Avatar photo 外部執筆者

 大きな泣き声で私を呼ぶ、赤子。外はまだ薄暗い。睡魔と戦いながら、暖かいベッドから抜け出し冷たいリビングへ向かう。ご要望通り、熱いお湯と粉ミルクを哺乳瓶に入れて、人肌まで冷ます。間に、急(せ)かすようにオムツをかえる。泣き叫ぶ口に、温(ぬく)もりある哺乳瓶を近づける。小さな手がつかむ。目を大きく開けてミルクがなくなるまで飲む。飲み干す。背中をさする。自分で出したゲップの大きな音に驚き、赤子はさらに泣く。

 根負けした私は一緒に散歩へ出掛ける。普段、車でしか通らない道を、見える景色を口にしながら歩く。いつも早送りで見ている世界が、スローモーションになったような気分になる。コンビニでコーヒーを買い、門中墓に囲まれた公園のベンチに座り、一息。二人きり。久しぶりに草木の匂いと虫や風の音を感じる。

 ふと、私と赤子の呼吸が重なり、ともに生きていることを実感する。同時に、初めてこの子の未来に思いを馳(は)せる。育児が終わり、この子が独り立ちする時、どんな社会になっているだろうか。眠りを妨げる空に鳴り響く音は、排出ガスが満ちるこの道は、子どもの頃ミーバイを釣ったあの海は。今を生きる自分自身に問われている気がした。

 帰宅し、久しぶりにテレビをつけた。盛んに取り上げられる芸能ニュースに疑問を持ちつつ、今社会で起きていることから確認しはじめた。日々の生活に追われる中で、社会に目を向けるのは難しい。私だけではなく、子どもが生きる社会。親として子の未来に責任を持ちたい。

 暖かい陽射(ひざ)しの中で悠々と眠る我(わ)が子を抱っこしながら。