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「楽しそう」の先に 小那覇涼子(生徒サポーター)<未来へいっぽにほ>


「楽しそう」の先に 小那覇涼子(生徒サポーター)<未来へいっぽにほ>   小那覇 涼子
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 今や進学も就職先もパートナー選びに至っても決め手は「楽しそう」である。

 М先生は国語教師として教壇に立つ傍ら、プライベートでは大手商業施設でおこなわれた「のど自慢大会」に出場したり、お茶の飲料メーカーが公募するところの俳句に作歌してみたり、興味がある講演があらば県外だろうがやすやすと飛行機にのる。実に楽しそうなのである。そして生徒たちもМ先生に引っ張られるようにぎこちない一歩を踏み出す。

 支援室の生徒たちを見ていると、不安も笑顔も連鎖していくのが手に取るように分かる。昨年度から本土への修学旅行がようやく再開されたが、一日の大半を支援室で過ごす生徒にとって集団に入るのはかなりハードルが高い。出発日が近づくにつれプレッシャーで休む子も出てきた。ところが、そのうちの1人が「やっぱり行きたい! 何か楽しそう」と言い出した。さらに、無理をしていないかしら?という大人の心配をよそに「入浴するとき長いと時間かかるから」と髪をバッサリ切ってきたのである。すると翌週からひとりふたりと続くように参加を決めた生徒らが、短くそろえた髪で支援室に顔を見せた。皆、はにかむような笑顔だった。出発の日、見送りのため早朝の空港へ行ってみると少々緊張気味の顔をしながらもクラスの皆に混じって座る姿を見つけ、胸が熱くなった。

 「楽しそうね」。かくいう私もこれまで何十回と言われてきた。姑(しゅうとめ)に至っては「洗い物をしている時の後ろ姿が楽しそう」だとか。そう、まずはイメージなのだ! 灯(あか)りの下に人は集まってくる。希望や夢という中身は後から入れよう。