今から仕事だよ　山城勝秀、山城塾（無料塾）代表＜未来へいっぽにほ＞

　子どもたちは突然自分に起きた大きな試練に、どのように立ち向かうのだろうか。両親が離婚した時や亡くなった時など、人生には自分の意思とは関係なく予期せぬことが起こることがある。

　数年前、ある女生徒の母親が離婚して家を出ていった。茫然（ぼうぜん）としている彼女を心配して、友人が塾に連れて来た。涙はない。その日はカバンをギュッと抱きしめてただ座っているだけであった。その後、彼女は昼夜逆転し学校も休みがちになった。友人と一緒に塾に来た時は机にうつぶせになり眠ることが多く、私はじっと見守ることしかできない。一時間ぐらい眠ると顔をあげ、ふらふらしながら友人と塾を出て行く。しばらく同じような日が続いたが、友人の献身的な支えなどもあって彼女は少しずつ体調も良くなり、数カ月たつと友人と話すようになった。私は「家でも眠れている？」と声をかけたが返事はない。しかし、私の冗談に笑顔で応えるようになっていった。

　年が明け、すっかり元気になった彼女は無事卒業の日を迎えた。私も彼女の卒業式の日には校門で待ち、卒業を祝った。面倒を見ていた姉も駆けつけていた。

　卒業して県外で就職した彼女が夏休みに帰省したというので、彼女の友人と私でささやかな激励会をした。時が過ぎ何年ぶりかで電話をかけると「今から仕事だよ」と明るい元気な声が返ってきた。

　友人、姉に支えられ元気になった彼女の声を聞き「もう大丈夫だ！」と思った。人間は逆境を乗り越える「レジリエンス」を持っている。それを引き出してくれるのは友人や親戚など、心配してくれる周りの人の支えや言葉かけではないだろうか。