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道を開拓する力を育む芸術 スプリー・ティトゥス(琉球大学教育学部准教授) <未来へいっぽにほ>


道を開拓する力を育む芸術 スプリー・ティトゥス(琉球大学教育学部准教授) <未来へいっぽにほ> スプリー・ティトゥス
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 生きることとは先が見えない中で方向を決めないといけない行為だが、後ろを向きそれまでの人生を振り返ると、道のような意図的な経路になる。こういう複雑で素朴な課題に向き合うことで人間が開発した力は、想像力と創造力だ。見えない先に何があるかを描くスキルが想像力で、描いたものを形にするスキルが創造力である。だが、現代教育ではどこでそういうスキルを学べるだろうか。

 従来、芸術とはあらゆる面で創造を伴うため、最も純粋な形の人間の経験だと言える。それは想像力から始まり、非常に個人的な「製品」(作品)で終わり、人生の道を開拓する経験ととても近い。芸術の制作で行う創造のプロセスは非常に自律的で自己主導的なものであり、自分の主体性を体現するものだが、同時にどのようにものを作るかという、非常に具体的な体験でもある。

 現代社会での芸術は美術館や劇場などの施設に閉じ込められ、少し遠い存在だが、昔の沖縄の地域文化には芸術体験は日常的にあった。地域の儀式、行事、祭り、工芸、芸能、音楽など、あらゆる創造的な制作があり、互いに表現する行為が地域のコミュニティーを結び合う力になった。多くの地域で芸術のような伝統的な表現活動が減っていく現状が見られるし、地域で過ごす子どもたちの時間が少なくなったので、地域に根付いた創造的な学びが減少している。

 私たちの研究では、現代的な芸術を生かして、子どもたちが地域の中でさまざまな発見と対話するきっかけにしている。新しい形の表現活動により自分の行く先を描く力を育むことは、地域の新しい道を開拓する創造的な力にもつながる。

スプリー・ティトゥス

 琉球大学教育学部准教授。ベルリン芸術大で建築の修士課程を修了した。沖縄を拠点にアート・まちづくり・教育を横断的に結びつける国際的な活動を展開している。1966年生まれ、ドイツ出身。