照屋年之監督の最新作「かなさんどー」が2025年新春から、沖縄を皮切りに全国で順次公開される。照屋監督にとって「洗骨」以来6年ぶりの長編最新作は、最愛の母(堀内敬子)を亡くした娘の美花(松田るか)が許せないでいた父の悟(浅野忠信)との関係を“再生”するまで描いたヒューマンストーリー。沖縄ロケ時のエピソード、映画の見どころについて、照屋と堀内、浅野に話を聞いた。(聞き手・田吹遥子)
―6年ぶりの長編。きっかけは。
照屋:コロナ禍で映画が撮れなかった中、スタート社の福田淳社長から「洗骨」に感銘を受けたから対談をしたいということで声をかけてもらいました。対談後に「僕がお金を出せば映画って撮ってもらえるんですか」と言われて。元々満島ひかりさんの主演で撮った短編映画「演じる女」を長編にしたいと思っていたので、一から本を書いてオッケー出て。そこからキャスティングさせていただいて快く出演していただいて…となりました。この2人じゃなかったらこの役はできなかったと思う。
―2人は実際に監督の演出を受けられた。
浅野:監督も演じる経験がありますから、われわれ(役者)をよく理解してくれていたと思います。素直に役のことだけを考えていられる時間だったと思います。
堀内:全部のシーンを監督が明確に指示をしてみんなで作り上げるという感じでした。うまくできないことはしっかりケアしてサポートしてくださる。演じる私たちと近い距離にみんながいてくれるような座組でした。
―沖縄でロケをされた印象は。
浅野:毎年、沖縄に来るのが好きで、沖縄に来ては癒やされて…ということを繰り返していました。その時に何か沖縄に恩返ししなきゃいけない気がすると話していて。でも何をすればいいのかがわからないのでいろいろ調べて、沖縄県内の放送局の番組で僕ができる役はないかな…などと考えていたら、ドンピシャのタイミングでこの話をいただいて。
旅行でも沖縄の方々に触れ合うことはあるんですけど、(撮影だと)沖縄のスタッフの方たちとどっぷりで。また助けてもらったというか。沖縄国際映画祭にも呼んでもらって。結局僕は何も恩返しができない状態で、ずっと助けてもらっている感じですね。
照屋:作品を見ていただいたらわかりますけども、もうそれが恩返しです。
浅野:ありがたい。
堀内:私はマネージャーが沖縄出身でして。なので「堀内さん、これ沖縄行けますよ」って言って(笑)、絶対参加したいと思ってやらせてもらったんですけど、やっぱり沖縄の方を演じるのはすごく難関でした。地元の人のなんとも言えない、この土地に根付いた感じを出すのはとっても難しかったなと思います。でも、本当に温かい周りのスタッフに助けてもらって、沖縄が本当に大好きになりましたね。
―浅野さんは沖縄のスーパー「ユニオン」のTシャツを着た写真をSNSで投稿していました。
浅野:撮影現場の近くに(ユニオンが)あったんですよ(笑)。かわいかったので買っちゃいました(笑)。
―監督から見て2人の演技はいかがでしたか。
照屋:浅野さん自身はかっこいい役とかが多いと思うんですけども(今回は)本当に情けない役なんですよ。(浅野さんが演じた)お父さんは情けなくて、調子いいし、娘に頭が上がらなくてビビってるという。だから、僕は新鮮な浅野さんの演技をこの映画で見られるのではないかなと。役がそのまま入ってこられるお仕事なので、本当に沖縄の夫婦という感じに演じるし、堀内さんにはニコニコと家庭を支える沖縄のおかんみたいに優しく演じていただけたので。
照屋:涙を流すシーンをお2人に何回も演技してもらったんです。「泣いてください、もう1回泣いてください」みたいな。もうね、スタッフもみんな「もうやばくない? 監督もうやらせすぎだよ」ぐらいになっていたけど、でも、本当にお2人とも真剣に「はい、頑張ります」「次もう1回頑張ります」と言って。ずっと泣くのって苦しいと思うんですよ。演技の中で。それを諦めずにやって、ピンポイントで2人が熱を入れていただいたおかげで、試写会で見た方に泣きながら喜んでいただいたので、人の心を揺さぶった演技なんだろうと思います。粘っていただいてありがとうございます。
―来年、沖縄から順次公開する。メッセージを。
照屋:みんな明るく過ごしていますけれど、心の中をのぞいたら、親子関係がダメだったり、兄弟でもめていたりだとか、とにかく人間関係って、全員がうまくいっているわけではない。その中で「許し」というタイミングがいつ来るかだと思う。「許し」は僕の根底で流れているテーマです。あいつを一生許さないのか、許すのか、許すならどのタイミングなのかという。皆さん、どこかで共感するはず。笑いながらジーンと来るのが、僕は自分の作風では得意分野だと思っているので、もし「洗骨」を見ていただいた方なら満足していただける作品だと思います。