prime

続く不条理を突きつける 「ライカムで待っとく」沖縄初上演 好演と巧みな脚本


続く不条理を突きつける 「ライカムで待っとく」沖縄初上演 好演と巧みな脚本 「ライカムで待っとく」の一場面=6月22日、那覇文化芸術劇場なはーと(小高政彦撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子

 沖縄在住の若手劇作家・兼島拓也の脚本で第30回読売演劇大賞優秀作品賞などを受賞した演劇「ライカムで待っとく」(田中麻衣子演出)が6月22、23の両日、那覇市の那覇文化芸術劇場なはーとで上演された。

 沖縄初上演。俳優らの好演と巧みな脚本で、沖縄戦から今も沖縄で続く不条理と混沌(こんとん)の現実を見る者に突きつけた。

 雑誌記者の浅野悠一郎(中山祐一朗)が、60年前の沖縄で起きた米兵殺傷事件を追うところから物語が始まる。事件には妻の知華(魏涼子)の祖父・佐久本寛二(佐久本宝)が関わっていた。佐久本宝が二役を演じる沖縄のタクシー運転手に導かれるように、過去と現在が交錯する。

 作品は、1964年に普天間で起こった青年4人による米兵殺傷事件を基に書かれたノンフィクション『逆転』に着想を得て制作された。著者の伊佐千尋は事件の陪審員だった。

 米兵殺傷に関わった佐久本寛二、嘉数重盛(神田青)、平豊久(小川ゲン)らが米軍に日常的に抱く理不尽への怒りが米兵への殺意として解釈される様や、彼らの背景、全員を有罪とする判決を迫られる場面など、『逆転』の要素も随所に感じられた。

 過去と現在が錯綜する中で、神奈川出身の浅野と浅野の先輩・藤井秀太(前田一世)を沖縄と同じ立場の当事者に仕立てる展開が、本土側の無理解を強調した。沖縄で米兵による女性暴行事件があったことを知る浅野だが、終盤で自分の娘が事件に巻き込まれた可能性を示されて初めて、事件が“自分ごと”になる。

 県外から沖縄にかけられることが多かった「寄り添う」という言葉を、この時は逆に沖縄側の佐久本が浅野にかけ、浅野は憤った。

 沖縄出身の佐久本宝や神田、蔵下穂波、あめくみちこが演じた人物たちの言葉が印象的だった。「(沖縄と本土の間にあるのは)境界線ではなく水平線。泳いでも“向こう側”はない」「沖縄が犠牲になるのを見て癒やされている」「沖縄は日本のバックヤード」。静かな怒りと諦め感が同居する言葉は、心の内側で重く響いた。「大丈夫よ」「わからんですね」と返す佐久本の笑顔にも同様の感覚を覚えた。

 回り舞台を用いた演出が秀逸だった。時間軸の変化だけでなく、不条理な「沖縄の物語」を止められない様を表現していると感じた。

 沖縄初上演に関し兼島は「観劇後口ごもってしまう。でも口ごもるということは伝えたいということ」とした上で「今作を沖縄で目撃し、言葉にできない言葉として語られ、伝播する。作品の中に隠したものは、この先の誰かに読み取られるだろうというかすかな希望を抱いてみたくなりました」とコメントした。 

(田吹遥子)