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庵野秀明と沖縄戦 「トップを狙え」女子校なぜ嘉手納に? <アニメは沖縄の夢を見るか>(2)


この記事を書いた人 アバター画像 琉球新報社
挿絵・吉川由季恵

 庵野秀明が初めて監督したOVA作品『トップをねらえ!』(1988)は、2021年の沖縄を舞台に物語が始まる。帝国宇宙軍附属沖縄女子宇宙高校(通称は沖女)に通うヒロインが、巨大ロボットのパイロットとなって宇宙怪獣と戦うSFアクションだ。長年にわたる宇宙怪獣との戦闘や、ウラシマ効果で地球との時間がズレてゆく展開には、ジョー・ホールドマンのSF小説『終わりなき戦い』(1974)からの影響が指摘できる。

<連載第1回> アニメに映る沖縄戦の影

 ではいったいなぜ、宇宙戦闘員を養成する女子校が沖縄にあるのだろうか?

 沖女が嘉手納に置かれている以上偶然ではありえないが、1988年に製作された本作に沖縄ブームの影響を見ることは難しい。それをうかがわせるような風物、音楽、言葉、人物などは出てこないからだ。

 沖縄が舞台に選ばれた背景として、まず岡本喜八監督の映画『激動の昭和史 沖縄決戦』(1971)が挙げられよう。庵野はこの岡本作品を100回以上観たと述べており、随所に岡本作品へのオマージュとおぼしき台詞やカットがちりばめられている。ただし庵野は岡本作品の中の沖縄戦に興味を示しただけで、沖縄戦そのものや現実の沖縄には見向きもしていない。

 沖縄が舞台となるもう一つの背景は、本作の世界観だ。企画資料によると、2008年にアメリカが日本領ハワイを奇襲して戦争が勃発(ぼっぱつ)し、2012年に講和が結ばれて日本がNASAの宇宙ステーションを接収している。つまり日本が戦争に勝ち、翌年に設立された地球帝国宇宙軍の主力を担っているというわけだ。これは現実を逆立させた「夢」の歴史だが、現実には米軍による沖縄統治の象徴が嘉手納基地であり、だからこそ逆立した歴史ではそこに沖女を置きたかったに違いない。

 最初は部活のようなノリだった16歳のヒロインだが、やがて宇宙での戦闘に送り込まれ、何十年と続く対宇宙怪獣戦争の英雄となってゆく。そこには太平洋戦争で特攻を強いられた若者や沖縄の少年兵の姿が重なる。しかもウラシマ効果によってヒロインが16~17歳のままだという設定は、沖縄戦で犠牲となったひめゆり学徒の写真がいつまでも若いことを連想させる。

 そしてヒロインは最後に爆弾を抱えて特攻し、ガマを思わせる宇宙の洞穴、すなわちブラックホールへと巻き込まれるのだ。再び沖縄が描かれる1万2000年後のラストシーンは感動的ではあるものの、庵野が関わった前作『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987)に漂う厭戦(えんせん)気分が、本作では戦争のヒロイズムを描く商業的打算へと置き換えられている。

(岡山大学大学院非常勤講師)