沖縄が舞台となるアニメが相次いでいる。去年公開されたBLアニメ『海辺のエトランゼ』(2020)では沖縄の離島が描かれ、今年の1月からは那覇の高校生が主人公のスケボーアニメ『SK∞』(2021)がテレビ放映された。また7月から始まる『白い砂のアクアトープ』(2021)は南城市の水族館が舞台だという。アニメに登場する沖縄は、修学旅行の定番どころか日常の風景となりつつある。
最初に沖縄を描いたアニメについてはまだ調査中だが、古いところでは「サイボーグ009」に一瞬ながら沖縄の場面が出てくる。このシリーズは石ノ森章太郎がライフワークとして取り組んだ代表作の一つだ。石ノ森は手塚治虫の影響を受けつつも、洗練された動きの表現と豊かな叙情性を通じて、独自の世界観を展開している。
アニメ版はまずカラーの2作が劇場公開された後、1968年にテレビシリーズ第1期が放映された。こちらはモノクロだったが、その第16話「太平洋の亡霊」には強烈な反戦平和のメッセージが込められている。ただしこのエピソードは石ノ森の原作にはなく、辻真先によるオリジナル脚本だ。
冒頭ではギルモア博士が009らとともにハワイを訪れている。そこへ日の丸をつけた戦闘機や特殊潜航艇が現れ、攻撃を加え始める。まるで真珠湾攻撃の再現だ。さらに各地で米軍の艦隊や空軍機への攻撃が相次ぐ。そしてビキニ環礁では、核実験の標的にされた旧日本海軍旗艦・長門が復活し、高濃度の放射能をまき散らしながらサンフランシスコに向かって突進する。一方、自衛隊機の前には、沖縄の特攻で死んだはずの平(たいら)がゼロ戦で現れ、まだ戦争でメシを食っているんだな、とかつての同僚を非難し、攻撃してくる。
すべては一人息子を特攻で失った平博士の復讐(ふくしゅう)だった。博士は戦後も平和が実現しないことに憤り、九州の孤島で自らの思念を実体化させる装置を発明していたのだ。本作のクライマックスでは、戦争の放棄を掲げた日本国憲法第9条の全文が画面に流れる。その背景には広島の平和公園や長崎の平和祈念像に続いて、女生徒がひめゆりの塔で祈りをささげる場面があった。また「過ちは繰返しませぬから」という広島の碑文が、戦闘機とのカットバックで何度も何度も強調され、最後は飛行するB52爆撃機の下でひめゆりの花が一輪折れ落ちる。
辻は後に、まだアニメの影響力に大人たちが気づいていなかったからストレートな発言ができた、と回想しているが、現在ならどうだろう?あちらこちらの顔色をうかがって自主規制が行われるのではないか。
(世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)