「心が折れた」「納得できない」シーズン本番の緊急宣言延長、経済界は猛反発


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 心が折れてしまった―。新型コロナウイルス感染拡大防止のため沖縄県に発令されている緊急事態宣言が、8月22日まで6週間延長されることが正式に決まった。さらなる自粛を強いられる経済界からは「到底納得できない」と猛烈な反発が上がり、宣言延長の政府決定を食い止めるよう、県を突きあげる緊急の要請行動も行われた。飲食業界には12日以降は休業要請に応じず店を開ける店舗が続出するのではないかとの見方が広がり、夏休みの需要を失う観光業界は悲鳴を上げる。

照屋義実副知事(左から3人目)に緊急事態宣言延長の撤回を求める沖縄ツーリズム産業団体協議会の下地芳郎会長(同4人目)ら=8日、県庁

 観光関連団体でつくる沖縄ツーリズム産業団体協議会(会長・下地芳郎沖縄観光コンベンションビューロー会長)は8日、県庁に照屋義実副知事を訪ね、沖縄の緊急事態宣言延長について「撤回を国に求めてほしい」と申し入れた。7日夜に示された宣言延長の政府の方針を受けて急きょメンバーを招集し、県への要請に動いた。

 参加した業界団体の代表らは、沖縄観光のピークとなる夏休みに経済活動の自粛を強いられ、昨年に続いて需要を失うことへの強い危機感を訴えた。

 下地会長は「観光のみならず沖縄の経済界として非常に納得できない」と述べ、感染者数が減っていることや離島ではワクチン接種が進んでいることなどを踏まえ、まん延防止等重点措置への移行で地域に応じた対応ができるよう求めた。

 県飲食業生活衛生同業組合の鈴木洋一理事長の元には、休業要請に応じてきた飲食関係者から悲痛な内容の電話が相次いでいるといい、「心が完全に折れてしまったという声があった」と照屋副知事に訴えた。

 十分な補償がない中で人流の抑制に耐えてきた観光業界にとって、回復への具体的な道筋や施策の根拠となるデータが示されないことへの不満がたまっている。県レンタカー協会の白石武博会長は「なぜこうなっているのか、まずはそのプロセスを説明した上で判断してほしい。観光団体も一緒になってワクチン接種も進めている。民間の努力がまったく無駄だ」と、憤りを隠さなかった。

 照屋副知事は、まん延防止等重点措置への移行の方針や、夏場が沖縄にとって重要な時期であることを県として国に伝えた経緯に理解を求めた上で、「知事を通して皆さんの声をしっかり伝えたい」と述べた。

 記者団の取材に応じた下地会長は「どうしてそうなるのか強い怒りの気持ちがある。業界はこれまでいろいろな取り組みを強化し、何とか今に至っている。島嶼(とうしょ)県という状況を踏まえての方針なのか極めて不透明だ」と話した。


【観光】宿泊解約増に警戒
 

(イメージ写真)

 県内の大手ダイビングショップは例年7~9月に1億~2億円の売り上げがあり、夏場の収入でオフシーズンの冬場も乗り切る。だが、前年からのコロナ禍が続く今年の夏も、19年比で7割減と厳しい売り上げ状況を見込む。代表者は「予定が狂った。宣言が出るだけで資金繰りが全く変わってくる」と語り、資金繰りの計画見直しで銀行に相談に行くという。

 那覇市内のホテルは、22日からの4連休の客室稼働率が70%まで上がっていたが、今週末からキャンセルが発生して50%を切ると見込む。レストランも連休後の26日から夜の営業を再開する計画を立てていたが、宣言延長を受けて再び対応を検討する。

 ホテルの総支配人は「レストランは引き続き閉めざるを得ない。10月以降の修学旅行が消えるのが怖い」と肩を落とした。

 沖縄本島の観光施設でつくる、美ら島観光施設協会の安里竜也会長代行は「緊急事態宣言がなぜ長引いているのか。落胆した。県に対し憤りしかない」と再度の延期に不満を隠さない。

 安里氏が副社長を務める名護市の沖縄フルーツランドは、緊急事態宣言が出てから休園を続けていた。12日から開業予定だったが、宣言延長で休園を続ける検討を余儀なくされている。園内に併設している宿泊施設は8月の予約が順調に伸びてきたが、「(キャンセルの)電話が鳴りっぱなし」と対応に追われた。

 県内大手の国際旅行社でも、旅行予約を取り消す際のキャンセル料の有無や沖縄の状況を確認する電話が相次いだ。與座嘉博社長は「11日までの我慢でもうすぐゴールだと思ったら、崖下の前に立たされている」と言葉少なに語った。


【飲食・卸売】収益減、補償拡充望む
 

張り紙で休業を知らせる飲食店=7月、那覇市内

 県独自の緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を含めて既に3カ月以上にわたって自粛を余儀なくされている飲食業界は、緊急事態宣言の12日解除を見込んでいた店舗が多く、6週間の延長に落胆が広がった。

 鉄板焼きステーキのキャプテンズインは観光客の来店も多かったが、現在は時短営業や酒の提供ができないこともあって厳しい状況が続いている。運営するキャプテンズグループの高江洲義司常務は「12日以降の予約状況は良くなって来ていたが、宣言延長で落ち込むだろう。感染を抑えるためには仕方ないかもしれないが、商売としては厳しい」と話した。

 酒や食材の製造・卸売業は協力金の対象ではなく、収益の落ち込みに直面している。

 飲食店などに業務用の酒類を卸売りする鏡原酒販(那覇市)の島袋偉代表は「ショックだった。『またか』というのが正直な感想だ」と驚きを隠さない。5月の宣言発令後、取引は激減し、コロナ前に比べると売り上げは8割ほど落ち込んだという。「業界への補償は十分ではない。コロナが沈静化しても、取引のあった店が再び注文してくれる保証もない。売り上げが100%元に戻るのは時間がかかる」と訴えた。

 オリオンビール(豊見城市)は、主力の生ビールの売り上げに影響が出ているという。石井芳典R&D部長は「沖縄は外でお酒を飲む文化が根強く、やはり生ビールを飲んでほしいという思いは強い」と吐露した。


【交通】利用者減、限界近づく
 

那覇空港

 観光客の減少と県民の外出自粛が重なり、交通運輸各社も苦境が続いている。

 日本トランスオーシャン航空の担当者によると、緊急事態宣言の再延長が決定する前から、7月の予約は2019年比で5割以下にとどまっていたという。「延長によって、需要の強い8月前半に丸かぶりになる。キャンセルが出ないか心配だ」と話した。

 飲食店の時短営業や休業によって、タクシーや運転代行の経営は限界に達しつつある。沖東交通グループの東江一成代表理事は「人が出歩かず、燃料代も稼げないこともある。雇用調整助成金を活用しているが、乗務員の社会保険は事業者側が負担しなければならず苦しい」と実情を明かす。玉城デニー知事に対し「手厚い補償や、県内分ワクチンのさらなる確保を政府に掛け合うべきだ」と、リーダーシップの発揮を要望した。

 酒類の提供が規制され、運転代行の仕事は激減している。全国運転代行協会沖縄支部の新崎勝吉支部長は「(仕事の)電話が全然鳴らない。本当に仕事がない」とため息をつく。生活ができず辞めていく従業員もいるとして「延長となるとかなりきつい。解決策が見つからない」と頭を抱えた。

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