協力金創設し保全に活用 93年遺産登録・屋久島の教訓 環境保護で続く模索〈沖縄・奄美 世界自然遺産登録特集〉


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縄文杉の手前で列をなす登山者=2013年5月4日、縄文杉手前(安藤潤司撮影)

 豊かな自然と共に、人々の暮らしも営まれる。2003年に世界自然遺産登録された屋久島の経験を紹介する。登録後は地元だけではなく県内外の人々も、この「宝」を守る行動が求められる。

 「15年ほど前までは週5日以上、縄文杉を案内した」。屋久島の登山ガイド満園茂さん(67)は振り返る。

 屋久島は1993年、国内初の世界自然遺産に登録され、観光客が急増した。入り込み客は2007年度の40万6千人をピークに減少に転じる。推定樹齢7200年の縄文杉見たさの観光客が一巡し、リピーターは一部にとどまるためだ。

 減ったとはいえ行楽時季は縄文杉への道は混雑する。約10年間登山道をパトロールした川村貴志さん(52)は「登山道をはみ出して歩いたり食事をしたりして植物が踏み荒らされ、道の脇が見る見る荒れた」と語る。10年度に山中のトイレのし尿を人力で搬出するまでは周辺に埋めていた。登山者増加で土壌分解が間に合わず悪臭がし、植生への影響も懸念された。

 屋久島町は11年、エコツーリズム推進法に基づき登山客を制限する条例案を議会に出したが、観光業者の反発で頓挫した。町は17年、し尿搬出などの費用を登山者から集める入山協力金制度を設けた。初年度は6500万円の収入があったが登山者が減り18年度から赤字が続く。不足分は町が負担し、観光と環境保全の両立の難しさを物語る。

縄文杉=2008年、屋久島(南日本新聞提供)

 山岳ツアーの大半は島外の旅行代理店が企画するため、島に落ちる金が少ないのも課題だ。地元住民からは「島の自然を搾取されている」との声も上がる。

 町や集落でつくる里めぐり推進協議会は12年、縄文杉頼みの観光脱却へ里めぐりツアーを始めた。語り部が集落の歴史や文化を紹介し、屋久杉の箸作りなどを楽しめる。屋久島観光協会の後藤慎会長(47)は「集落ごとに異なる文化は観光客には魅力的。うまく発信できれば盛り返せる」と期待する。軌道に乗れば、環境悪化を抑え、経済構造を転換する一歩になる。

 民宿を経営する長井三郎さん(70)は世界自然遺産の目的は観光振興ではなく、山の保全だと強調する。「屋久島は観光客を増やすことを目標としてしまった。自然の許容量を考え、環境への負荷のない観光を目指すべきだ」と話す。

(南日本新聞・中野あずさ)

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