ある日、BTSの沼に落ちました。体験描いた漫画に海外からも反響


この記事を書いた人 Avatar photo 大城 周子
体操部のお姉さんがTwitterに投稿した漫画の1場面

 自分でも困惑するぐらい、まるで落とし穴に落ちるみたいにドスンと好きになってしまった--。
 世界的な人気を誇る韓国の音楽グループ「BTS(防弾少年団)」に突然のめり込んだエピソードを描いた漫画が今年7月、ツイッターで話題になった。気がつくと抜け出せなくなっていた「沼落ち」の過程がファンの間で共感を呼んだ。

 作者は、体操部のお姉さん(@taisoubu_onesan)。きっかけは今年5月、たまたまスマートフォンから流れてきたBTSの楽曲を耳にしたことだった。その時までBTSに関する知識は「Dynamiteの人たち」という程度だったという。ハイトーンの歌声に「女性もいたっけ?」と軽い気持ちで検索したところ、ミュージックビデオ(MV)から目が離せなくなった。

 「映像もダンスも、構成もめちゃくちゃかっこよくて、生半可な気持ちでこのクオリティーは出せないと思いました。私の中のアイドル像ががらがらと崩れました」とMVの魅力を興奮気味に語るお姉さん。そこから一気に雑誌のインタビューなどを読みあさるようになり、次はBTSメンバーの姿勢に関心が移った。

 47歳のお姉さん。これまでの人生で、アイドルや音楽グループなど「推し」に夢中になるという経験はゼロだという。BTSへの「沼落ち」は大人になったからこそ湧いた感情でもあると自己分析する。

 BTSは国連児童基金(ユニセフ)のグローバル・サポーターを務めたり、2020年には黒人差別反対運動BLM(ブラック・ライブズ・マター)の支援で約1億円を寄付したりするなど積極的に社会活動を発信していることでも知られる。

 お姉さんはエンタメ性だけでなく彼らの姿勢にも感銘を受けたという。「世の中の現状を見ていると『私たちの世代が何もしてこなくて申し訳ない』という気持ちになることがあります。若い人たちが世界を変えるために自分の果たせる役割を考えていることに心から尊敬の念を抱いたんです」

 しかし、なぜ漫画にしようと思ったのか?お姉さんは「自分でも理解できないくらいのスピードでハマっていくのが面白くておかしかった。誰かと共有したいとかはなくて、ネタとして笑ってもらえたらという程度の気持ちでした」と話す。

 毎日、仕事から帰宅して家事などを済ませた後、夜な夜なリビングで「AdobeFresco」というアプリを使って少しずつ描いてはツイッターに投稿した。

 実は普段は沖縄の新聞社「琉球新報」で働くお姉さん。新聞に掲載するグラフや地図、イラストなどを担当している。今年は沖縄戦の特設サイト「沖縄戦を知っていますか?」で、動くグラフィックも手掛けた。

 BTS漫画をコツコツとツイッターへ投稿した理由には苦い思い出もある。

 2019年10月31日、沖縄のシンボルともいえる首里城で火災が発生。正殿などが焼失した。衝撃を忘れまいと、当日起こったことを漫画に記録し始めたお姉さんだったが、「新年号」と呼ばれる元日紙面の作業など日々に忙殺されるうち更新が滞った。

 結局、漫画は未完成のまま。「時間がたつにつれて記憶が薄れていった。あのとき自分がどう感じていたのか思い出せなくなって、描き進められなくなってしまった。そのことがずっと引っかかっていた」と言うお姉さん。「だから今回は毎日1コマずつでもいいから描いて、その『証明』として投稿を続けた」のだという。

激しく燃える首里城を見つめる住民ら=2019年10月31日午前5時54分、那覇市首里(大城直也撮影)

 1カ月近くかけてBTS漫画を描き上げて「完成版」を投稿すると、思いもよらず反響が広がった。「全く同じ沼り方で共感しかありません」「気持ちを代弁してくれた」。リプライやリツイートが相次ぎ、「本場」韓国をはじめ遠くはパナマやアルゼンチンなど海外のARMY(アーミー=BTSのファン)からもコメントが集まった。漫画はARMYたちの手によって韓国語と中国語にも訳された。お姉さんは「とにかく『BTSってすごい』というのが感想。私の漫画が良いのではなく彼らの影響力のすごさ」と繰り返す。

 BTS漫画を通じてつながった国内外のARMYたちの勢いには刺激も受けたという。BTS関連の情報を素早くキャッチし、発信し、連帯する。

 「社会を変えようとしている若者に影響を受けた人たちがさらにその輪に加わっていく。そんな人たちの存在に気付けたのは大きいかもしれません」

琉球新報社内のデスクで

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