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普天間高校生が愛する「点心」の謎に迫った 中華風丼弁当の誕生秘話、店主はどんな人?<高校前メシ>


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
普天間高校の校門横にたたずむ「点心の店」=2021年4月

 誰にでも、思い出して顔が思わずほころぶような懐かしいメニューがあるだろう。普天間高校の卒業生にとってのそれは「点心」じゃないだろうか。点心とは、普天間高校の校門横にちょこっとたたずむ弁当屋「点心の店(中華どんぶりの店)」のこと。オープンから24年。今も昔も変わらず普天間高校生のソウルフードであり続けている。しかし、分からないことも多い。なぜ中華?なぜこんなに人気なの?そして「点心のおじさん」は一体どんな人?卒業生の記者が15年来のナゾを解くべく、訪ねてみた。(田吹遥子)

■点心のおじさん、正体は?店を開いた意外な理由

 「準備中」の札がかかったままのドアを開けた。「点心のおじさん」こと、比嘉隆さん(64)が鍋を振るっている。寡黙な印象だったが、話しかけると優しい笑顔で答えてくれた。

比嘉隆さん。優しい笑顔で応じてくれた。

 「なぜ弁当が中華オンリーなんですか」
 ずっと疑問だったこの質問をまず投げてみた。と言うのも、高校時代「点心のおじさんは夜はホテルの中華料理屋で働いてるみたい」との噂が飛び交っていたからだ。真実を確かめたい。

 実際はこうだった。比嘉さんの父親は、50年前に那覇市にあった中華料理屋「中国飯店」の創業者。比嘉さんは、そこの調理場で野菜を切る「切り場」と揚げ物の担当をしていたという。その後「中国飯店」は、北中城村安谷屋に移転し「パンダ食堂」として営業を続けている。そして今、比嘉さんはその「パンダ食堂」のオーナーをしながら「点心」を経営している。

 普天間高校隣のあの場所に店を開いた理由を聞くと「何でだったかな」と首をかしげた。
 比嘉さんも普天間高校の卒業生。だが、それが理由というわけでもないらしい。

 店を始める前、比嘉さんは中国飯店やその後のパンダ食堂で、平日は午後10時まで、時には土日祝祭日も働いていたので「夜は友だちと飲みに行ったり自分の時間を過ごしたりしたい」と考えていた。ちょうどその時店を借りることができたのが高校前の店舗。高校生をターゲットにした昼中心の弁当屋にしようと決めて、点心がオープンした。

 そういえば「点心」という名前の由来は?

 店を借り、電話回線を引くためにNTTを訪れた比嘉さんだが、まだ特に店名を決めていなかった。そこで職員に「店名は?」と聞かれとっさに出てきたのが「点心」だった。
「いきあたりばったりで決めた名前よ。中華の軽食的な意味もあると思って」。

 しかしその後、いつの頃からか店の看板が「中華どんぶりの店」になっている。これいかに?
「普天間高校生以外の人が『点心』という名前を見て飲茶があるのではと思ってしまうから」とのこと。それでも今も昔も普天間高校生にとっては「点心」で通じている。

■あの味、あのメニューが生まれたのは

点心の丼弁当。

 点心のメニューと言えば、チャーハンや春巻きを除いて全て丼だ。これらのメニューが生まれたのもパンダ食堂などで働いた経験からだという。
 「お客さんが中華料理をご飯の上に載せて食べていた。それで中華料理のおかずを白米にのせて丼でいけるのではと」。

 牛肉とピーマンを炒めた青椒肉絲のような料理をご飯にのせた「牛ピー」。ニンニクの芽と牛肉を炒めた「にんにくの芽」。揚げ焼きにした卵焼きにチリソースをたっぷりかけた「ちりたま」。記者が一番好きなのは鶏肉と白菜、タマネギ、ピーマンを塩だれで炒めた「チキン」。絶妙な塩加減がやみつきになり、油に絡んで照りが出た白米までもが思い出すだけでよだれが出る。

記者が好きな「チキン」とにかく美味しい。

 ご飯にも合う、味の決め手となる「たれ」は中国飯店やパンダ食堂にはない、比嘉さんが独自で編み出したもの。
中国飯店などで働いていた時の担当は切り場と揚げ物。「炒め」はしたことがなかった。中華料理の要となる「炒め」の仕事を点心で「ぶっつけ本番」で始めた比嘉さんだが、味加減を常に調整、研究しながら今の味にたどり着いているという。

 客のニーズでできたメニューもある。「牛たま」はピーマンが嫌いだった教員が「タマネギにしてほしい」と要望したことでできたメニュー。最新メニューの豚キャベツ丼は、これまでの注文などで豚肉メニューが女性の支持を得ていることを実感し、増やしたという。

 だが、一番のこだわりは味よりも「やっぱり高校生が買うから値段」と言う。創業以来消費税は3回上がったが、一度も値段を変えていない。

■「過労死しそうなくらい忙しかった」電話注文時代

 記者が高校時代、3時間目の休み時間になると「点心注文する人?」と聞いてくれる気の利いた人がクラスに必ず一人はいたものだ。その人に「私、チキン(小)」などと頼むと、まとめて携帯電話で注文してくれる。そしてお昼休み前に買いに行く―15年前はそんなシステムだった。

 今は教室内で携帯電話が使えないなどの理由から注文箱での注文に変わったという。注文箱だと2時間目の休み時間で締め切っているが、電話注文時代は3時間目まで受け付けていたこともあったせいか「あの頃がピークに忙しかった」と振り返る。

今はこの注文箱で注文を受け付けている

 1時間目、2時間目、3時間目、全ての休み時間にひっきりなしに電話が鳴る。多いときは1日130食作った。3時間目の休憩時間の発注が多くなると、昼休みまでの約1時間で30食を完成させないといけないこともあったよう。

 「時間が決まってるから遅れるわけにはいかない。プレッシャーもあって店で過労死しそうだったよ」。

 せめてもの心の余裕を保つためにと、店内の時計はいつも5分前に設定している。3時間目の休み時間に注文していた身からすると、申し訳なさが募る。しかし比嘉さんは「高校生に鍛えられたよ」と笑顔を見せた。

 比嘉さんが点心を始めた頃は、点心の弁当を「自分以外でも誰でも作れるようにしたい」と考えていた。それがどのメニューにも通じる「たれ」の開発と丼メインにした理由にもつながる。ゆくゆくは人を雇って…と考えていたからだが、計画は変わった。

「高校生と話すのが楽しくて楽しくて。自分でやりたくなってしまったわけ。抜けられなくなって気づいたら24年だよ」。
 普天間高校生と過ごす時間が楽しくなったという比嘉さん。創業以来、ずっと1人で店先に立っている。

「高校生と話すのが楽しくて自分でやりたくなってしまった」と笑う比嘉さん。

■披露宴にも登場?高校生にも卒業生にも愛される店

 取材をした日も午後1時5分。高校生が飛び込んできた。列をなして弁当を買っていく。毎日点心を食べているという2年の男子生徒によると、今の人気は「豚キャベツ丼」だという。春巻きとカレー(小)の「セット買い」もトレンドのよう。チャーハンを手に持った高校2年生の男子生徒たちは「卒業したら点心で同窓会したいな」と笑い合っていた。

 さらに卒業生も2人買いに来た。お酒を飲んだ翌日が仕事休みだと無性に点心を食べたくなるという石塚裕也さん(31)。この日は友人の分も含めて5食をお買い上げ。「普天間高校生のソウルフードで、こづかいを節約してたまに買う『ごちそう』でした。改めて食べるとコスパがいい。そしてやっぱり懐かしい。この味で育ったから」と熱く語る。

 言うまでもなく、「点心」は高校生にも「元高校生」にも、とにかく愛されている。

今の高校生に人気の「春巻き」揚げたてだ

 比嘉さんと「点心」は卒業生の披露宴の「思い出のアルバム」に登場したり、学園祭で上映された生徒作の映画にも出演したりしたこともある。コロナの影響で休校が続いた2020年の春には「点心を食べに行って応援しよう」という卒業生のツイートに多くの人が「いいね」した。

 比嘉さんが点心を始めたばかりの頃、「俺の子どもが高校生になったら一緒に来る」と言っていた生徒がいた。当時は「それには20年もかかるよ」と笑ったが、あれから24年…実際に高校生になった子を連れてくる卒業生もいたという。

 そんな再会も喜ぶ比嘉さん。
「一番嬉しいのは点心のことを『学生時代の味』と覚えてくれていること。卒業しても来てくれるのは本当にうれしい」。

卒業生も買いに来る

 大好きな「チキン」と、普天間高OBの同僚から注文を請け負った「ニンニクの芽」「親子丼」を買って店を出た。点心の丼弁当。優しい味も比嘉さんの愛情も変わらず、普天間高校生をとりこにし続けている。

できたてほやほやのちりたま丼。高校生も元高校生もとりこにし続けている

 

高校前メシ

あなたが高校時代、お昼休みや放課後に通っていたお店はどこですか?思い出の「高校前メシ」を記者が訪ねました。WEB限定の連載です。

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