これって自己都合退職?勤務ホテルが閉館、異動先は遠い…「往復4時間」の壁


この記事を書いた人 Avatar photo 玉城江梨子
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 私たちって、自己都合退職なんですかー。読者の疑問に答える「りゅうちゃんねる」に、10月末で閉館が決まった那覇市内のホテル従業員から自身の処遇に関する疑問が寄せられた。ホテルの全従業員は恩納村の系列ホテルへの異動が内示されたが、異動できない人は自己都合退職になるという。寮はあるが単身者用、通勤手当には上限がある。さまざまな条件を考えると、退職せざるを得ないという。「これって会社都合じゃないですか?」

 ホテル側に異動を内示した理由を聞くと「従業員の働く場を確保するため」との回答があった。ホテル側としては雇用維持に努めた結果だ。「会社としても閉鎖は不本意。離職者の不利益にならないよう再就職支援もしている」と説明した。それでも、従業員にとって退職する最大の原因はホテルの閉鎖だ。退職のタイミングも自ら選んだわけではない。突然、働いていた場所がなくなり、次の職場を探さないといけない状況に追い込まれた。心中、穏やかではない。

 

「片道2時間」の壁

 「自己都合」か「事業主都合」(会社都合)かは、離職者にとって大きな分かれ道だ。会社都合だと翌月には失業手当の支給が始まるが、自己都合だと支給開始が遅れる。

 今回、ポイントとなるのは異動先とされた恩納村のホテルまでの通勤時間だ。ホテル側は「事前にハローワークに相談したところ、片道の通勤時間が2時間以内なら問題ないという回答があった」と明かす。

 ハローワークの回答は、厚生労働省などが「通勤困難」の基準としている「往復所要時間がおおむね4時間以上」を参考にしたと思われる。同社ホームページによると、那覇空港から恩納村のホテルまでの所要時間はタクシーだと片道70分、シャトルバスだと2時間。通勤困難には当たらず、異動できないのは自己都合という認識だ。

 

「裏技」がある

 ただ、会社に自己都合退職とされた後でも、会社都合と同等の扱いで失業手当を受けられる方法があるという。労働問題に詳しい喜多自然弁護士は「退職届を提出して自ら退職した場合でも、人員削減のための退職勧奨や、就労条件や就労環境が悪化するなどして、やむを得ず退職に至ったような場合には『正当な理由がある』自己都合退職として、倒産や解雇と同様の条件で受給ができる仕組みになっている」と説明する。

 手続きは難しくない。離職票には離職者自身が記入する欄があり、退職理由をチェックするだけだ。主張が食い違っていた場合、ハローワークが総合的に判断する。喜多弁護士は「職場の事情で退職を余儀なくされたのに、完全な自己都合退職であることに異議がないものとして離職票を提出してしまうと、不利益が発生するので注意が必要」と説明する。

 

隠れ会社都合

 沖縄労働局の「職業安定業務月報おきなわ」によると、2020年度の離職者は4万6125人で、そのうち会社都合は1万4918人、自己都合は2万8829人だった。自己都合は会社都合の約2倍だ。この傾向は21年度に入っても変わらない。自己都合の中に、実質的な会社都合が隠れている可能性もある。

 喜多弁護士は「離職理由は労働者の雇用保険の給付、ひいては生活保障にも直接影響を与えるので、雇用主としても労働者から退職届が出されていることをもって安易に単純な自己都合退職扱いにするのではなく、実態に即した離職理由を記載するなど、適正な労務管理を行う必要がある」と指摘。「コロナ禍が長期化し、事業所の閉鎖や人員削減などにより労働者が退職を余儀なくされるケースは今後も増加する可能性があり、雇用保険制度の適正な運用の確保のための行政の積極的な取組みも求められている」とコメントした。

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