水深わずか2メートル、それでも太陽光は届かず、暗い洞窟の中に迷い込んだ錯覚に陥る。海面を見上げると無数の軽石が地層のように折り重なる。厚さは約10センチ。海底が逆さまにひっくり返ったようだ。白濁した海水がライトに照らされ、視界は狭い。
海底火山の噴火の影響とみられる軽石が沖縄県内各地に漂着している問題で、26日、沖縄本島北部・国頭村の辺土名漁港で潜水取材した。世界自然遺産に登録されたばかりの「やんばるの森」に隣接する海だ。
【動画と写真】軽石、海面下10センチぎっしり→ https://bit.ly/3nuyqM1
辺土名漁港では、今月中旬、沖合に漂っていた軽石がみーにし(新北風)に押され、港内への流入が始まった。23日には港内全体が軽石に覆われ灰色に染まった。港内のいけすで畜養されていた出荷目前のグルクマ(サバ科)が石をのみ込み大量死するなど、環境への影響も懸念される。
折り重なる軽石で真っ暗な水深約1・5メートル付近。岸壁に付着して生息するサンゴに石がまとわりついているのが確認された。サンゴと共生する褐虫藻の光合成は阻害され、長期化すればサンゴは死滅する可能性がある。サンゴ周辺をすみかとする色鮮やかな小魚たちの姿は見えなかった。
取材中、記者の目には天地逆さまな景色が広がる。時折、海面に上がる泡をライトで照らし自らの位置を確認した。浮上の際は、手のひらほどに滞留した石を両手でかき分けた。まとわりつく石のせいで、セメントの中から這いずり出たかのような、脱力感に見舞われた
地元漁師は「沖にはまだ大量に石が漂流している。昨日は沖で軽石が海面に帯状になったところを通過しただけで、エンジンが止まった。目の前の軽石を撤去したとしても、また近づいてくれば、いたちごっこだ」と肩を落とす。
地元漁師によれば、海岸やビーチに漂着した軽石は、波打ち際でこすれ合い細分化されることで海中の濁りの原因になるという。本来の青く透明度の高い海に戻る日は、しばらく見通せない。
▼漁港の軽石回収、10月末にも着手
▼死んだ魚の胃に詰まった大量の軽石…漁業関係者「災害だ」
▼【写真特集】沖縄の青い海が灰色に…大量の軽石がビーチ、川、道路にも