誤情報にネガキャン…泥仕合の1区 「オール沖縄」に気の緩みも<記者が見た衆院選>


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保守分裂となった沖縄1区で、赤嶺政賢氏(共産)に敗れたものの、比例での当選が確実となり、支持者と万歳三唱する国場幸之助氏=1日午前0時55分ごろ、那覇市牧志の選対本部

 10月31日投開票の衆院選で、県内の4選挙区は玉城デニー知事を支える「オール沖縄」勢力の2勝、自民の2勝で議席を分け合った。県内ではコロナ下で初めての国政選挙となり、各候補者は自身の政策を訴え、奔走した。琉球新報は3日、今衆院選の取材に当たった衆院選取材班6人による記者座談会を開いた。選挙期間中の裏話や、今後の県内政局の展望などを現場からの視点で切り取った。
 (’21衆院選取材班)

<勝因・敗因>オール沖縄 基地訴え弱く/自公 組織票取りこぼさず

 A 1区は公示に入って選挙戦が進むほど、赤嶺政賢氏がリードを広げる展開だった。保守勢力の一本化に調整がつかなかった国場幸之助氏と下地幹郎氏の両陣営は最後まで競り合った。一部で誤情報や相手を非難するチラシなど「紙爆弾」も飛び交い、さながら泥仕合の様相を呈した。

 B 結果的に赤嶺氏に「漁夫の利」をもたらした印象すらある。ただ、3候補ともほとんど前回と得票率は変わっていない。同じ顔ぶれだと、同様の傾向が続くのではないか。

 B 2区は初出馬の維新の山川泰博氏の1万5千票余は、「オール沖縄」(新垣邦男氏)と自民(宮崎政久氏)のどちらの支持票が流れたのか気になった。

 A 新垣氏が前回の照屋寛徳氏の得票より減らし、宮崎氏はほぼ横ばいだった。割を食ったのは新垣氏ではないか。宮崎氏の比例復活をアシストした格好、と言えるかもしれない。

 D 正直、宮崎氏陣営で、選挙区内の県議の関わりは弱かった。前回と得票が変わらなかった要因の一つだろう。

 E 新垣氏の陣営も知名度不足や維新候補の存在などがあるにせよ、もう少し取れたはずだ。西原町や足元の北中城村、これからある北谷町長選で分裂していることが背景にあるが、体制が弱かった。「勝てるだろう」という気の緩みを感じた。

 B 3区の選挙結果は運動量の違いだろう。勝利した島尻安伊子氏は前回の補選で落選し、浪人期間中もこまめに地域を回っていた。「オール沖縄」側の「風任せ」の考え方はもう改めるべきではないか。

 C 屋良朝博氏の辺野古に関する主張は、基地問題に詳しいがゆえか、やや冗長で専門的だった。クリアに「反対」を打ち出した方が有権者に響いたんじゃないか。

 D 屋良氏は公示直前に、秘書給与問題が報じられた。だが敗因はそれだけでは説明できない。

 F 3区は公明党が島尻氏支援を全面的に展開した。これまでの選挙では支持母体の創価学会の中でも、婦人部は島尻氏に批判的だったと聞いていた。学会とも調整がうまくついたのだろう。

 E 4区は西銘恒三郎氏が沖縄担当相に就任後、流れが一気に変わった。西銘陣営の市町村議員は公示後に「選挙はもう終わった」と漏らしていた。

 D 金城徹氏は知名度不足を挽回できなかった。ただ、宮古島市は前回8千票差をつけられていたが、今回は約4千票差に縮めた。一方で、前回は「オール沖縄」候補が1万票取った南風原町では逆転されるなど、厳しい面があった。

 B 4区に関しては、前回は宮古島市で、下地幹郎氏との票のバーターがあったとされている。今回は大幅に減らすとみていたが、4千票差に踏みとどまった印象だ。今回の勝利は、いずれにしても「大臣効果」にほかならない。しっかりと実績を残さなければ、有権者から見放されるだろう。

<普天間問題>新基地反対 民意変わらず/コロナ下 経済・生活を優先

 E 基地問題があまり争点ではなくなってきているように感じた。新型コロナウイルスの影響などで経済や生活の立て直しの優先順位の方が高い。

 C 辺野古新基地建設問題がある3区の議席を自民の島尻氏が奪還したことで、「辺野古反対の民意は薄れている」という声も聞こえる。しかし「オール沖縄」が支援する屋良氏は辺野古反対を前面に出せず、何を軸に持ってきているのか分かりづらかった。運動量で票差がついたが、辺野古反対の民意が薄れているようには思えない。

 B 3区に限らず「二の次だ」と考えている人が比較的多くなってきたことの表れだと思う。長引く普天間飛行場の問題や、何度民意を示しても工事を続ける政府の姿勢が県民の諦め感を招いているともいえる。だが、県民が諦めればいいのかというと、そうではない。県民の多数が受け入れていない国策を「アメとムチ」で、懐柔する手法で粘り勝ちということになれば、民主主義国家として終わりではないか。

 F 地盤改良工事を追加する設計変更について、玉城デニー知事は不承認とする構えで、タイミングを見計らっている。もともと、不承認の根拠としては民意ではなく、軟弱地盤の安全性が十分確保できていないことなどを理由にする予定だった。不承認の方針は変わらないだろう。

>>>【座談会続き】県政への影響は? 辺野古反対の民意に変化は?


[座談会参加者]

 池田哲平(政経グループ)▽大嶺雅俊(同)▽中村優希(同)▽明真南斗(同)▽喜屋武研伍(北部報道部)▽當山幸都(暮らし報道グループ)


 

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