【全文・動画】桐谷健太×平一紘監督スペシャル対談 全てを受け止める街だから撮れた作品


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 沖縄県内で1月21日から先行上映が始まった映画「ミラクルシティコザ」(平一紘監督)の出演者・裏方に映画の魅力を聞く、連載第5回は、1970年代のコザで米兵を熱狂させたバンドのボーカル・ハル役を演じる主演の桐谷健太がゲスト。平監督を案内役に1月20日、役作りやコザの印象を聞いた。

オファーに直感 脚本に感動

 ミラクルシティの連載「ロードトゥミラクルフューチャー!」第5回のゲストは、ついに桐谷健太さんに来て頂きました。よろしくお願いいたします。今回、映画「ミラクルシティコザ」への出演を決めて頂いたきっかけはなんだったのでしょうか。

桐谷 神奈川の海の方に、母親と旅行に行っていた。浜辺を歩いていたら、マネージャーから「沖縄ロケでオリジナルの原作作品で、こういう話がきていて。受けようと思っている」という電話がかかってきた。海を見ながら、あ、なんか来たなと。これいい感じやな、つながってるぞこれは、と。それが一番最初のきっかけです。感覚的にもその出来事は覚えています。その後に、脚本を送って下さって、監督が「何でもいいから思ったこと言ってください」とおっしゃって。脚本を見て、すごく斬新で面白いと思った。

それで、「沖縄の人たちの思いとかも見えたらもっと好きかもです」みたいな言葉を(監督に)送ったら、監督が速攻で「書き直しました!」みたいな。ベースはそのままなんですけど、またブラッシュアップされていて、「またなんか言ってください」みたいなやり取りが続き、またより良くなりましたよね。で、また「ここはどうなっているんですか」みたいな。めちゃくちゃ送ってくださいましたよね。台本。

 たぶん全部で、初稿から数えたら26回書き直したんですよ。

映画について語り合った桐谷健太さん(左)、平一紘監督=那覇市の琉球新報社

桐谷 それで台本が6稿くらい、バンバンバンと来たときに、「もうちょっと定まってから送ってもらってもいいですか」という連絡をした(笑)。でも、やっぱり最初に感じたとおり、「切り口面白いな、斬新だ」と思った。「沖縄ロケで映画撮ります」と言われると、青い空、透き通った海、そこでの家族の物語みたいな感じかなという部分もあるじゃないですか。もちろん僕はそういう映画も大好きです。でも、監督の脚本を読んだときに、「なんだこれは」と思った感覚がすごく強い。基地の回りの町で本当に、60年代、70年代に米兵たちを相手に、バンドをやっていた人たちがいるということを知らなかったので、そこはすごく感動したというか、すごい面白いなと思った。それが第2のきっかけです。1発目、そのこういう話が、オファーがきているよというので、「あっ、来たな」っていう直感があり、次に、脚本読んだときに「すてきだな」という思いがありました。

平 本当に、いま聞いていて、引き受けてもらえて良かったなと思いました。いろいろとブラッシュアップする中で、どんどん話が変わっているんですけど、軸だけはぶれないように、と思って、コザの魅力は絶対損なってはいけないと思ったんですね。なんか、この映画を観たあとに、コザを歩いてほしい。ここには今もコザのロックバンドの人たちが現役でいるんだ、みたいな。そういう楽しいテンションで沖縄市のコザを遊んでほしいし、コザを見たあと、もう1回映画を見てほしいなと思って書いたので。桐谷さんを通して表現できて良かったなと思いました。

いろんな人の立場で、抱擁してくれている作品

桐谷健太演じるハル(左)(PROJECT9提供)

平 撮影期間の少し前に、テレビドラマで能楽師の役をされていましたが、映画ではバリバリのロックンローラーの役でした。役作りの期間が若干かぶったと思うのですが、どのように沖縄ロックの歌い手としての役作りをされたのでしょうか。ギャップに戸惑ったりしたところはあったりしましたか。

桐谷 もともと音楽がすごく好きなので、そこに向かっていく熱量は努力という感じじゃないんですよね。楽しいから、全然やれてしまうし、もちろんドラマが終わってから、映画にインするまでの期間はだいぶ短かったですけど。でもある意味、能も「謡(うたい)」だし、全然表現の仕方は違うけど、つながっている部分があって。でも全く違うところにバツーンとふれた感覚は、自分の中で気持ち良く触れたので。どっちかというと、兵隊さんたちの前で思いっきり音を鳴らすという肝の据わった人たちの思いの方が大事にしましたね。感覚としては。映画の歌とかラップとかありましたけど、こうやるというよりも思いの方を大切にした感じでした。

平 実際、宮永英一さん(チビさん)とお話もされたりしていましたが、何か参考にされたりしましたか。

桐谷 めちゃめちゃ参考になりましたね。そういうのもすごく縁というか。役が変わって、誰と話すか、誰と出会うかで、映画も役も変わっていくというのはすごい面白い。紫のバンドメンバーのドラマーのチビさんとは、撮影で使っていたホテルの食堂で会ったんですよ。最初の方に、たまたま。「うわっ、めっちゃ話お聞きしたい」と思って。「ご飯中、すいません」っていいながら。そしたらいろいろな話をしてくださって。それは僕がハルを演じるに当たってすごい強烈に大切な核となったお話をしていただけました。

平 いまでもチビさん、自分のお店で昔さながらのライブをやり続けている。すてきなバンドマンだなと思いました。チビさんのお話でどういうところが印象に残りましたか。

桐谷 例えばドラムを連打したときに、マシンガンの音だと勘違いしてしまって、気が狂ったようにステージに襲いかかってくる兵隊さんたちもいたし、最初はすごい上から「あの曲やれ」「あれできんのか」と言っていた人たちが、(ベトナム戦争の)戦況が悪化していく中で、本当に祈るような目で「あの歌が聞きたいんだ」みたいに言うようになり、だんだん見る目も変わってきた、と。「この人たちも被害者なんだと。戦争はみんなを被害者にしてしまうんだ」ってすごく感じたと、チビさんはお話されていました。

県民の方の中には米兵を相手に稼ぎやがっていう方も当時いたと。やっぱりいらっしゃったでしょうし。その中で、中立でいることの、なんだろう、つらさもあったでしょうし。でも、「自分は大好きな音楽をやっているという誇りがある」っていうのがチビさんの話の中からすごい感じた。そこはハルを演じる上で、すごい大きなことでした。

チビさんは血のつながっていないおばあちゃんに降り注ぐような愛情でもって育ててもらったみたいなんですね。だから、「自分には血のつながりなんか関係ないんだ」っていうようなことをおっしゃったんですよ。それがすごく俺はグッときて。だからこそ、なんかこう、人種とか関係なく、感じられる部分もあったんじゃないかなって。

この映画も、そういうところがあるじゃないですか。すごくいろんな人の立場で、抱擁してくれている作品だなって、そこが俺はすごいすてきだなって。もう人の数だけ思っていることとか、感じている言葉は絶対あるから、「これはこうだよ」っていうことって言えないじゃないですか。でも、この映画ってそういうのも含めて、抱き締めてくれている内容になっているなって感じた。そこは素晴らしいなと思いました。

 

平 いまの話を聞いて本当に思ったのが、70年代のコザってどういう町だったか調べていて、僕が一番印象に残っていたのが、何もかも受け止める懐の深い町だったということ。ハーフの方だったりとか、いろんなところからいろんな人たちが出稼ぎにきていたりとか、そういうのを全て受けとめてもらえる町。いまのコザも何十カ国もの人が住んでいるかと思えば、スタートアップ事業をやるような最先端のビジネスをやっている若い人たちもいたり。そういう本当に、大きい懐の町。桐谷さんの性格もでかい、本当に情熱的。そうなったときに、本当に合ったんだなと思って。映画の街としてのキャラクターと、桐谷さんご自身の魅力ともあって。本当にいい反応で映画ができたなと思いました。

見終わった後、幸せな気分になれる映画

60、70年代の雰囲気が今も残るコザのゲート通り

桐谷 まさにコザでしか撮れない映画だったんじゃないですか。

平 そうだと思います。「ミラクルシティコザ」というタイトル通り、街も主役の映画だった。撮影の間、約1カ月コザにいて、どんな印象を持ちましたか。

桐谷 本当はもっと人が歩いていたり、基地の方たちも出てきたりしてるけど、コロナの影響があって、撮影期間は人通りもそこまでなかったんですけど、(コザの)空気があらゆるところに染みついていて、すごくテンション上がった。いままでは沖縄は自然と戯れに行く場所という感覚があったんですけど。本作の撮影を通して、コザは「街にも、仲良くなれたスタッフキャストのみんなに会いに帰る場所」みたいになりましたし、俺の中では好きな場所になりました。

平 いろんなところに行かれて、桐谷さんの目撃情報とかありましたね。

桐谷 散歩しまくりましたね

平 コザの名物である映画「シアタードーナツ」にも行ったと聞きました。

桐谷 一人で、ふらっと行って。かわいらしいお店だなと思って。え、ドーナツも売ってて映画もやってんの、って。で、見に行ったんですよ。そしたらいろんなところで(シアタードーナツ代表の宮島真一さんが)司会とかやってらして。

平 最後、質問というかお願いなんですけど、県民の皆さんに向けて本作のPRを主演の桐谷健太さんからお願いしても良いですか。

桐谷 見終わった後に、楽しい気分になったり、ほっこり幸せな気分になれる映画に仕上がっていると信じております。今なかなか映画館に足を運びづらい時期であると思いますけども、そんなときだからこそ映画館で見ていただいて、元気になっていただけたらほんとうにうれしいと思います。今は50%しか観客が入れなかったりするが、その分、2倍ロングランさせていただきたい。適度なディスタンスを保ちつつ、この映画とのディスタンスはがっつり近づいてください。楽しい映画になっています。ぜひ見てください。ありがとうございました。
 

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