メディアはジェンダー平等ですか?表現ガイドブックの編集で見えてきたこと【WEB限定】


この記事を書いた人 Avatar photo 慶田城 七瀬

 「美しすぎる市議」、「女子アナ」や「女子力」、「男泣き」に「ご主人」…。これらは、新聞やウェブなどで使われがちな表現で、誰もが目にしたことがあるだろう。実はこれらの表現はもはやNGとされているのだ。なぜダメなのか、理由がお分かりになるだろうか。冒頭のような、性差別や性別で役割を分ける意識につながる言葉を考察しようと、全国の新聞社の労働組合でつくる新聞労連(吉永麻美中央執行委員長)が3月に「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」(小学館)を出版した。全国から集まった記者たちが、問題提起だけでなく自戒の意味も込めて作った一冊だ。編集作業に参加し第2章のモバイルプリンスさんのインタビューを担当した記者が、出版までの経緯を振り返った。
(デジタル編集グループ・慶田城七瀬)

性的な見出し、修正してもらえない

「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」(新聞労連提供)

 新聞労連は近年、業界内のジェンダー平等を推進しようと、労連内の中央執行委員の女性の割合を3割に増やす「女性特別中央執行委員」の枠を設置したり、加盟労組の記者有志で女性への性差別や地位向上を目指す「国際女性デー」報道の連携に取り組んできた。22年1月には、新聞労連ジェンダー平等宣言も採択した。

 ガイドブック出版のきっかけとなったのは、ジェンダーの問題や性暴力の取材を続ける記者たちの意見交換の中で「ウェブの記事に性的なものを連想させる見出しがあり、担当に修正するよう求めたが対応してくれなかった」という報告だった。

 仲間うちではよく紙面やウェブの記事の表現や見出しの気になる表現を共有しあっていた。その流れで、業界全体で共有できるガイドブックのようなものが必要ではないかー?という話になり、制作が決まった。これまで、一部の新聞社では社内向けテキストがあったが、業界全体で共有できるものはなかった。

 さらに、インターネットやスマートフォンの普及で、誰もが社会に向けて発信者になる時代だ。業界内だけでなく広く一般市民にも活用できるようなガイドブックにしようと、本として出版することになった。

新聞労連に加盟する記者たちがジェンダー表現について議論を深めたオンライン勉強会。画面上部の真ん中が筆者、右に講師のモバイルプリンスさん。=2021年8月15日

 出版に向けて、全国各地の記者を中心に新聞業界で働く人々が参加した勉強会も開かれた。勉強会では、紙面で性暴力の表現が矮小化されたり、ウェブ配信の現場ではアクセス数を稼ぐために性的な表現が見出しで強調されていることなど、ジェンダーをめぐる「もやもや」の報告があった。

 当時、私自身も新聞労連の中央執行委員を務めていたことから、ガイドブックの編集作業に関わることになり、自分が現場の業務を通して気になっていたツイッター上のやりとりを紹介した。

 夏の風物詩「スクの水揚げ」の記事にまつわるツイッター上でのユーザーとのやりとりだ。「スク(アイゴの稚魚)」の水揚げの記事を琉球新報の公式Twitterでツイートすると、その記事を引用した一般のユーザーが「スクール水着」の略称「スク水」と勘違いし、水着の少女の画像が次々と投稿され、Twitterのトレンド入りする現象が起こった。

 フォロワーの勘違いから始まったが、社内では「おなじみのやりとり」となっていった。Twitterのトレンドに入れば話題になり、サイトへの流入も増える。お堅い新聞社のイメージを払拭できるというニュース配信現場側の期待もあったようで、このやりとりが問題であるという感覚は社内にほとんどなかったように見受けられた。そして、10年近く記事に対する投稿としてたびたび発生していた。

 そして、すぐにまた「スクの水揚げ」の季節が巡ってきた。

スク水揚げを報じるウェブサイトの記事

気がつけば発信する側に

 コロナ禍で社会活動が次々と制限される中、イベント事業部にいた私は2020年にデジタル編集グループに配属されていた。

 デジタル編集グループは、紙面に載った記事の見出しをウェブ用に付け直してサイトにアップし、Yahoo!やスマートニュースなど外部に配信したり、Twitterやフェイスブックに投稿してサイト記事に誘導し、PVアップや有料購読者増につなげるのが主な業務だ。

 それまでは他部署から見て「スク水」はまずいよなと思いながら何もできずにいたが、気がつけば見出しを付ける側にいる。まさにウェブに記事を配信しPVを稼がなければならない当事者となった。

 グループには、2、30代女性を中心にこのやりとりにモヤモヤしている人もいた。外部から、水着の少女を性的に消費することを琉球新報が助長している、という指摘も受けた。

「スク水揚げ」のニュース自体には問題はなく、多くの人にも読んでほしいが、Twitterに配信されると、また同じやりとりが繰り返されてしまう。

水揚げされたスク自体には影響はない(資料写真)

 繰り返されないためには配信する見出しを変えれば良いのではないか。「見出しに「の」を入れるなど改善してはどうか」と同僚とのチャットに共有した。

 このときも社内の男性からは「これがなんでだめなのか?」「(フォロワーが)勝手に勘違いしているだけ」などの反応もあった。

 騒ぎすぎなのは自分だけなのかという迷いと、日々配信する大量の記事の対処に追われ、結局このときも改善されないまま世に出てしまった。

 このやりとりを労連の仲間と会議で共有してみた。その場でTwitter検索した記者たちからは、悲鳴にも似た反応があり、嫌悪感をあらわにする人もいた。

 身内の恥をさらすようで忍びなかったが、ジェンダーに敏感で取材を重ねてきた全国のメンバーの反応を見て、やはりこのやりとりの何が問題かを指摘するべきではないかと思うようになった。社内でだめなら、ネットにもジェンダーにも詳しい外部の人に指摘してもらおうと考えた。

 沖縄を拠点に活躍するスマートフォンアドバイザーのモバイルプリンスさんが適任だと思った。琉球新報が初めて取り組んだ国際男性デー企画で「男性の生きづらさ」をテーマにせやろがいおじさんと対談をしてもらったことがある。
 

 >>国際男性デー企画・せやろがいおじさん×モバイルプリンス対談「男の生きづらさって? 」

国際男性デー企画で対談したせやろがいおじさんとモバイルプリンスさん

フォロワーとの「共犯関係」

 ガイドブックでは、このやりとりがなぜだめなのかを解説してもらった。
 最初に勘違いで始まったやりとりだとしても、2回目からはフォロワーも社内も、先述の反応が来ることを想定した上で、特に見出しに改善を加えずにやり続けている。モバプリさんは、これに対し「キャバクラに飲みに行ったり、一緒に下品なことをやったりして、秘密の共有で仲良くなるというのに近い関係性を感じた」と話してくれた。

 新聞社が、男性優位な社会の中で女性蔑視や性差別に無自覚なやりとりを続けていれば「共犯関係」になるのではないか。ガイドブック編集の議論の中で、ようやく私も、問題がどこにあるのかを言語化できたように思う。

「スク水」はガイドブックで取り上げた事例の1つにすぎないが、本ガイドブックを通して全国から集まった記者たちが伝えたかったことは、新聞がこれからの時代の変化についていくには、自ら発信してきたニュースや記事の表現の中に無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)があったことに気づき、読者や市民とともに考えながら表現や価値観をアップデートしていくしかないということだ。

 このガイドブックを通して、業界だけでなく広く読者や市民とジェンダー平等な社会に向けて取り組んでいきたいと思っている。

 ガイドブックは全国の書店やインターネットで販売中。価格は1650円。


※デジタル編集グループ内で再度話し合い、これまで配信されていた記事の見出しを修正した。(2022年6月)

ジェンダー表現、どこが問題か考えてみましょう(一部抜粋)

>>特集・国際女性デー2022
 

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