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沖縄への愛、作品に込め 学業と両立「努力で道開ける」 小川深彩さん(映画監督・俳優)<夢かなう・続き> 


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自身が監督した映画について語る小川深彩さん=2022年11月29日、東京都の日本大学芸術学部(大城直也撮影)

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 自主映画制作を始めた小川深彩(みさ)さん(21)は、17歳だった2019年に2作目の「偽神(ぎしん)」を撮影した。17年から映像制作会社でインターンを始め、放課後や週末に現場で映画制作を学んでいた。

 「偽神」のスタッフや俳優を集めるのは大変だったが、これまで制作現場で出会った人や共演した人に頼み込んだ。制作費は、ためていた自身の出演料やお年玉を全て回した。「『高校生が頑張っているから』と協力してくれた。私の足りないところをたくさん指摘してくれて、皆さんの優しさで現場ができていた」と振り返る。

 「偽神」では主人公の男の家に謎めいた彫刻が届き、愛する人の命をささげるよう求められる。神が与えた試練のように感じた男は、神と家族の命のどちらかを取るか選択を迫られる。この作品は、小川さんの生まれ育った米国南部が熱心なキリスト教徒の多い地域だったという経験から生まれた。「あなたなら絶対的な存在と家族のどちらを選ぶだろうか」という問いを込めている。

 これまで俳優として出演した際に緊張したことはなかった。だが20年の田辺・弁慶映画祭に「偽神」を出した時は「自分の思いや経験を形にした作品がもし否定されたら」と怖かったという。賞をもらい、作品が認められた驚きとともに「もっと作りたい」という感情があふれた。

 審査員から「基礎から映画を学んだ方がいい」と助言され、日本大学芸術学部への進学を決意。受験まで2カ月しかなかったが、猛勉強を経て合格した。 21年には同映画祭受賞作の上映イベントがあり、「偽神」に加えて新作の「二階のあの子」「はじめの夏」が東京と大阪で上映された。その後も各地の映画祭などで上映を重ねている。
 

「二階のあの子」撮影時の小川深彩さん=2021年4月(小川さん提供)

 小川さんの作品はサスペンスやサイコスリラーが多い。「追い詰められた時に人間の本質が現れる」と考えるからだ。どんなジャンルであっても美しい映像にこだわり、「作品の中で答えを出さず観客に問い掛ける」よう心掛けている。

 「二階のあの子」は、祖母の家に住むことになった主人公の少女と、2階の部屋にいる不思議な少女との友情を描いたダークファンタジーだ。美しい風景や優しい祖母が出す黒砂糖などに「中高生の6年半を過ごした沖縄への愛」を込めた。

 「沖縄は故郷だと思っている。どこにもない景色や文化、人の温かさがある。私がここまで来られたのは沖縄の皆さんのおかげ。これからもなるべく沖縄で撮りたい」

 大学で勉強しながら監督や俳優、翻訳の仕事を続ける。将来の目標は監督を続けながら大学で映像制作などを教えることだ。

 「夢は考えているだけではかなわない。できることから必死に努力をしたら、何らかの道は開けると思う」。力強い目で語った。

 (伊佐尚記)


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連載「夢かなう」

 好きなこと自然体で 幼いころに見た夢、学生時代に追いかけた目標、大人になって見つけたなりたい自分。一人一人目指す場所は違っても、ひたむきに努力する姿は輝いている。夢をかなえた人たち、かなえようとしている人に焦点をあて、その思いを伝える。

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