ドラマをはじめ、映画やK-POPなど、現在も世界中を席巻する「韓流」。沖縄も例外ではなく、宜野湾出身のカズタさんが韓国のアイドルグループとして活躍するなど、K-POPアーティストを目指す県出身の若者も増えている。夢を追う人々だけではなく、自宅で韓国料理を作るようになった、という人も少なくないだろう。県内各地で韓国食材専門店の開業も相次ぐ。韓国デビューをサポートする韓国語教室や食品専門店など、沖縄県内の「韓流」の今を追った。
(・呉俐君)
「K-POPアイドルコース」で夢をサポート
「KーPOPアイドルになりたいが、どこで(韓国語の)ボーカル練習できるのか」。2016年、琉球大学に留学するため来県した韓国・水原(スワン)出身のジョ・ウンジさん(31)は、在学中、周囲から何度もこう相談を受けた。当時、県内では韓国語のボーカル練習ができる専門教室はなく、同サービスの需要を感じた。
大学を卒業後、同国テグ出身の友人グ・ヒョンジさん(26)とともに韓国語教室「Swan Academy(スワンアカデミー)」(那覇市)を開設。韓国の大学進学コースだけでなく、オーディション準備を応援するKーPOPアイドルコースも開設した。
ジョさん自身、小さい頃、芸能人になりたかったという。「自分がかなえられなかった夢を見ている若者を全力で応援したい」と、K-POPアイドルコースの立ち上げにこだわった。同コースでは、韓国語に加え、発音矯正やオーディションの選曲など、受講生の需要に応える。
「韓国アイドルになりたいと学ぶ日本人の若者をみると、時代が変わったと本当に実感する。私は10代のころ、日本の文化やJ-POPなどに憧れがあったが、今になって逆転し、正直びっくりした」と母国の韓流パワーに感心する。
現在、同教室では、10代の生徒3人が韓国のオーディション参加を準備しており、それぞれが夢に向かってトレーニングを積んでいる。
アイドルが食べている物を
「韓流」パワーは、食卓にも。県内各地ではここ数年、韓国食品専門店や飲食店の開業が相次ぐ。昨年10月末、全国最大級という韓国スーパー「YESMART(イエスマート)」(本社・東京)がイオンモール沖縄ライカム(北中城村)で県内2店舗目をオープンさせた。同店では、本場の食材や、調味料、雑貨など約1800種類の商品がそろう。
イエスマート沖縄店の何斌(カ・ヒン)店長は「コロナの影響で韓国文化が好きな地元客や県内在住の韓国人らが韓国へ行けなくなったため、食材などをここに買いに来る」と県内需要を説明する。客の多くは韓国ドラマなどで使われている食材や雑貨を求め、30〜40代の女性が多く占めるという。
家族と一緒に初めて同店を訪れた沖縄市在住の28歳の女性は「韓国ドラマやアイドルを見ている。アイドルたちが食べている物はどんな味か、自分も食べてみたいと思い、調味料やラーメンを買いに来た」と話した。
昨年8月以降、水際対策の緩和により、韓国と沖縄を結ぶ直行便が再開された。カ店長は「直行便の影響はあるが、買い物客の好みに合わせて仕入れて、韓国最新の流行により商品の種類も変えていく」と営業戦略を語る。今後、食品だけではなく、化粧品などの販売も視野に入れ、最新の「韓流」を提供していく考えだ。
オーディション何度落ちても 10代の挑戦
城間結(ゆい)さん(16)=豊見城市在住=も、韓国でデビューすることを目指す1人だ。昨年9月から韓国語教室「スワンアカデミー」に通い始めた。KーPOPが好きになったきかっけは、中学時代の友人の影響。城間さんは「元々人前に出るのが好きで、KーPOPの曲を聞かされたとき、とてもかっこ良いと感じた」と話す。
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城間さんは、オーディションに専念するため高校へは進学せず、韓国語をはじめ、ダンスやボーカル練習をゼロから始めた。「もちろん将来のことを考えると、(進学しないことに)不安はあるが、親が応援しているおかげで、思い切ってチャレンジできている」と家族への感謝を語る。
これまで十数種のオーディションを受けてきたが、まだ結果が実っていない。落ち込むときもあるが、それでも城間さんは「ここで止まったら、成長しない」と前を見つめる。
世界でブームを引き起こす理由
「韓流」がなぜここまで世界を席巻するようになったのか。メディア研究などに詳しい沖縄国際大学の安志那(アン・ジナ)准教授に話を聞いた。
アン氏によると、韓国のコンテンツ産業が勢いを見せ始めたのは、2010年代から。2000年代から「韓流」が始まり、2010年代に急速に成長した。韓国のGDPが上がったことや、日本、アメリカなどの文化を吸収して成長した世代が、コンテンツを作り出してきたことも背景にある。
また、韓国は競争社会だ。コンテンツ産業を含め、どの分野においても競争が激しい。人々は生き残るため、どんどん新しいことへチャレンジする。ダメなら切り捨て、最新の物を取り入れる。それが、韓国の文化が世界中で速いスピードで前に進んでいる理由の一つ、とも分析した。
加えて、もう一つの要因は、コンテンツ制作企業がYouTubeなどをうまく活用し次々と無料動画を配信している点。さらにファンたちが無償で内容を翻訳し、字幕を付けるー。この動きが世界的ブームを引き起こすことに大いに役に立ったとみる。
勢いを見せる「韓流」だが、もちろんデメリットもある。アン氏は、「人々は疲れており、みんなが幸せだとは言えない」とも指摘する。
アジア各国と交流してきた歴史をもち、世界の架け橋となる「万国津梁(ばんこく・しんりょう)」を目指す沖縄。「韓流」というソフトパワーを発揮する隣国の戦略から何かヒントを得ることはできないか。
アン氏は「どんどんSNSなどを活用し、外国語で発信してはどうか。内部の視線だけではなく、外からの視線も取り入れる。沖縄は韓国と比べて競争心が少ないが、沖縄は沖縄でいい。韓国アイドルを目指すことは、リスクもあるが、何でもチャレンジしてみないと分からない」と語った。
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