「本土の民主主義見直す機会に」 復帰前の沖縄描く小説「南風(まぜ)に乗る」の柳広司さん


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 小説家の柳広司さんが、戦後の沖縄を舞台とした小説「南風(まぜ)に乗る」(小学館)を刊行した。沖縄側、本土側の視点を政治家の瀬長亀次郎、詩人の山之口貘、評論家で沖縄資料センターを主宰した中野好夫の3人に託し、米統治下の沖縄を描いた。「民主主義とは何か、もう一度見直すきっかけになればという希望を込めた」と語る。

 復帰前の沖縄に焦点を当てたのは「沖縄をはじめ、本土の若い人に読んでほしい。沖縄戦から復帰までに何があったのかが抜け落ちてしまっている」との思いからだ。小説家としてデビューして以降、抱えてきた「沖縄を描きたい」との思いを復帰50年の節目に実現した。

 実在した3人の視点で展開する構成は「同じ時間軸で本土側、沖縄側の視点でどんな動きがあったのか。そこを(構成によって)面白く読んでもらえるのが小説の強みだ」と語る。「読者が当時の沖縄の人たちの気持ちになって読むことで見えてくるものがある」と強調する。

 山之口貘の生家があった土地を訪ねるなど、沖縄に通って取材を重ねた。瀬長亀次郎が残した日記を読み込んだほか、瀬長の国会での発言記録など2千枚以上の資料も読み込んだ。「知らなかったこともあり、唇をかむ思いだった。特に後半は苦しみながら書いた」と振り返る。

 昨年はロシアによるウクライナ侵攻があり、全国メディアはこの報道で一色になった。「復帰50年がしぼんでしまうようにも思えたが、年が明けたこのタイミングで(単行本を)出せたことで『現在に続いているテーマなんだ』と思ってもらえるといい」と語る。

 「南風」を「はえ」ではなく「まぜ」と読ませた。「黒潮の流れる地域では南からの風が『まぜ』、良い風と認識されている」という。ウクライナでの戦乱を機に民主主義国家と専制国家という対立軸が注目を集める一方、日本政府は沖縄の県民投票結果を無視して名護市辺野古での新基地建設を進めている。「民主主義国としての日本はどうなのか。沖縄を見ることで、本土の民主主義を見直すきっかけにもなるのではないか」と語る。

 復帰前の沖縄を舞台にした物語の構想はさらにあるという。「今回の作品が話題になれば、さらに書いていけると思う。沖縄の方々にどう読んでもらえるのか怖い部分もあるが、ぜひ多くの人に読んでほしい」と呼び掛けた。
 (宮城隆尋)

「南風(まぜ)に乗る」について語る柳広司さん=那覇市泉崎の琉球新報社
柳広司さんの「南風(まぜ)に乗る」