沖縄最強牛の闘勢琥珀、新天地の徳之島へ 強豪倒し全島5連覇 手塩にかけた平良恵さん、元牛主に「恩返し」移籍


この記事を書いた人 琉球新報社
第118回春の全島闘牛大会で重量級を制した闘勢琥珀(右)=14日、うるま市石川多目的ドーム(喜瀨守昭撮影)

 【うるま】14日の第118回春の全島闘牛大会で徳之島の最強牛を倒し、事実上の日本一になった闘勢琥珀(とうせいこはく)が、6月中に徳之島に移籍することが決まった。新たな牛主は、琥珀の父と母を沖縄に連れてきた徳之島出身の男性だ。琥珀を育てた牛主の平良恵さん(48)=うるま市=は「この人がいないと琥珀は生まれてなかった。恩に報いないといけない」と、以前から男性の頼みは断らないと決めていた。全島闘牛大会を5連覇した8歳の最強牛は新天地でさらなる活躍が期待される。

 ▼【写真特集】春の全島闘牛大会 猛牛同士の迫力対決に会場熱気 

 琥珀の父は平良さんの牛舎で育った名牛、梨夢神(りむじん)だ。梨夢神はデビューから5連勝と大活躍したが、蹄(ひづめ)の病にかかり死んだ。琥珀の母も種牛として沖縄の牧場に来ており、ともにこの徳之島出身の男性が元牛主だった。

 琥珀の母が出産を控えている時、平良さんは夢の中で赤毛の子牛が生まれる姿を見ている。周囲に話すと笑われたが、その日の朝に牧場に行くと夢で見た赤牛がいた。運命を感じ、夫の高敏さんに手元に置いてほしいと頼み込んだ。

 その琥珀は愛情を受けて成長した。牛舎では飽きないように品種までこだわった数種類の草を与え、日々のマッサージも欠かさない。世話を終え帰宅した時には日付が変わっていることも珍しくない。

 琥珀は2021年にデビュー3戦目にして沖縄闘牛界の頂点に立つと、3大会連続で防衛を果たしてきた。こうして絶対王者として迎えた今回の春の全島大会だったが、その相手もまた闘牛の本場である徳之島の全島大会で5度防衛し、王座を返上して沖縄入りした牛若赤丸ぎのわん號(ごう)だった。これまでの相手とは注目度が違った。

優勝旗を掲げて喜ぶ闘勢琥珀の牛主の平良恵さん=14日、うるま市石川多目的ドーム(喜瀬守昭撮影)

 対策として、赤土の山を上り下りするトレーニングを取り入れ、平良さんは1週間前から牛舎に泊まり込んだ。大会直前には気性の優しい牛が初めて人に角を向けるほどに。「悔いが残らないほどやれることは全てやってきた」。

 大会本番、琥珀の登場曲は北島三郎の「恩返し」。平良さんは取組が始まるとしばらく見ていられなかったというが、琥珀が落ち着いて闘う様子を見て最後まで見守った。「勝てる」。相手に打撃を与え、じりじりと押す展開に。最後は腹取りで勝負を決めた。

 大会後、徳之島の男性から琥珀を譲ってほしいという電話があった。平良さんにとって、梨夢神が息子、琥珀が孫のようなものだという。毎朝、梨夢神の遺影に手を合わせている。平良さんは「いつもいた姿がなくなるのは寂しいけど、二度と会えないわけではない。試合の時は必ず応援に行く」と目に涙をためて話した。
 (古川峻)

【関連記事】

▼【動画あり】春の全島タイトルマッチの結果 シーの一番(横綱戦)は闘勢琥珀×牛若赤丸ぎのわん號

▼敗れたものの、牛若赤丸ぎのわん號の最強伝説

▼沖縄の新聞社には「闘牛担当通信員」が存在する 22年間担当した平川康宏さん、息子・智之さんにバトンタッチ

▼HY、現代版組踊、闘牛・・・ 心揺さぶる魅力を売り込め うるま市が「感動産業特区」を宣言