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辺野古代執行訴訟 沖縄県答弁書(全文)


辺野古代執行訴訟 沖縄県答弁書(全文) 沖縄県庁(資料写真)
この記事を書いた人 Avatar photo 與那嶺 松一郎

令和5年(行ケ)第5号
地方自治法245条の8第3項の規定に基づく埋立地用途変更・設計概要変更承認命令請求事件
 原告 国土交通大臣 斎藤鉄夫
 被告 沖縄県知事 玉城康裕
 令和5年10月18日
福岡高等裁判所那覇支部民事部 御中

 第1 請求の趣旨に対する答弁
 1 原告の請求を棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。
 との判決を求める。

 第2 請求の原因及び結語に対する認否
 1 「1 はじめに」
 原告による本件訴訟の概要の説明という限りにおいて認める。なお、
念のため、被告が「正当な理由なく長期間にわたって本件変更承認申請
を承認」せず「当該事務遂行が埋立法に反すると認められた」(訴状6
頁)という主張は争うものである。

 2 「2 本件訴訟の提起に至る経緯」
 (1) 「(1) 本件承認処分(平成25年12月27日付け沖縄県指令土第1321号・
沖縄県指令農第1721号)の内容等」
 ア アについて
 認める。
 イ イについて
 認める。
 ウ ウについて
 認める。
 エ エについて
 認める。
 (2) 「(2) 本件承認処分の撤回処分(平成30年8月31日付け沖縄県達土第125号・沖縄県達農第646号)等の経緯」
 ア アについて
 認める。
 イ イについて
 認める。
 ウ ウについて
 認める。
 エ エについて
 認める。
 (3) 「(3)令和3年11月25日付け沖縄県指令土第767号・沖縄県指令農第
1502号による不承認処分等の経緯」
 ア アについて
 認める。
 イ イについて
 認める。
 ウ ウについて
 認める。なお、「作業ヤードに供する埋立地の取りやめによるものにすぎない『埋立地ノ用途ノ変更』に告示・縦覧等の手続が必要」(傍点引用者)との記載があるところ、「埋立地ノ用途ノ変更」であっても告示・縦覧等の手続が不要といわんばかりの主張は手続的
適正を軽視するものである。
 エ エについて
 認める。
 オ オについて
 認める。
 (4) 「(4) 本件指示取消訴訟の最高裁判決後の経緯等」
 認める。

 3 「3 代執行の要件を満たすこと」
 (1) 「(1) 原告が、被告に対し、地方自治法245条の8第1項所定の勧告をしたこと」
 ア アについて
 第1段落は認める。
 第2及び第3段落は争う。
 イ イについて
 争う。
 ウ ウについて
 (ア) (ア)について
 争う。
 (イ) (イ)について
 第1段落は認める。
 第2段落は争う。
 (ウ) (ウ)について
 争う。
 エ エについて
 認める。
 (2) 「(2) 原告が、被告に対し、地方自治法245条の8第2項所定の指示
をしたこと」
 認める。
 (3) 「(3) 被告が指示に係る事項を行わなかったこと」
 認める。
 (4) 「(4) 小括」
 争う。

 4 「第3 結語」
 争う。

 第3 被告の主張
 1 「都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合」への該当性について
 (1) 原告の主張
 原告は、被告が本件変更承認申請を承認しないことについて、地方
自治法(以下「地自法」という。)245条の8第1項所定の「都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合」との要件に該当するとして、次のとおり主張する(訴状14頁)。
 ① 「『法令の規定(注・本件では埋立法上の本件各規定)に違反する』『法定受託事務の管理若しくは執行』」に該当する。
 ② 「原告の行った本件指示に違反するものとして『各大臣の処分に違反するものがある場合』」に該当する。
 ③ 「本件指示によって課される義務を怠っていまだに同申請を承認しないものとして『法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合』」に該当する。
 (2) 「法令の規定に違反」について
 原告は上記のとおり、被告が本件変更承認申請を承認しないことが法令違反に該当するというところ、そこでいう法令は「埋立法上の本件各規定」であり、「本件各規定」というのは、「埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2第1項及び第2項において準用する同法4条1項1号及び2号の各規定」ということである(訴状12頁)。
 そうすると、原告が主張する法令違反は、本件変更承認申請は埋立法4条1項1号及び2号の要件を充足しており承認処分をなす法的義務があるにも関わらず被告がこれを承認しないというものとなる。
 よって、原告は、法令違反を理由に本件変更承認申請を承認すべきことを命ずる旨の裁判を請求するには、本件変更承認申請は埋立法4条1項1号及び2号の要件を充足していることを主張立証する必要がある。ところが、この点で原告が主張していることは、「本件変更承認申請を承認しない被告の事務遂行が本件各規定に反して違法であること、また、これを理由として行った本件指示が適法であることは、本件指示取消訴訟における一連の判決によって、明らかとなっており、上記最高裁判所令和5年9月4日第一小法廷判決においても、そのような被告の事務遂行が、地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当する旨明確に判示されている」(訴状14頁)というのみである。
 しかし、ここで指摘されている「本件指示取消訴訟における一連の判決」のうち、御庁令和5年3月16日判決は、本件変更承認申請が本件各規定の要件を充足している旨判断した一方で、その上告審である最高裁判所令和5年9月4日第一小法廷判決(以下「本件最高裁判決」という。)は、本件各規定を充足するという理由で本件指示の適法性を認めた原判決の判断を採用せず、行政不服審査法(以下「行審法」という。)52条1項及び2項で規定されている裁決の拘束力をもちだし、「法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分がその根拠となる法令の規定に違反するとして、これを取り消す裁決がされた場合において、都道府県知事が上記処分と同一の理由に基づいて上記申請を認容する処分をしないことは、地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められる」としたにとどまり、被告が本件変更承認申請を承認しないことが本件各規定に違反するとは一切認定しなかったのである。
 そして、裁決の拘束力は、「裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければならない」という限度で働くものに過ぎず、「申請に対して承認処分をしなければならない」という効力はない。したがって、裁決で問題となった不承認処分の理由とは異なる理由により再度不承認処分をすることも妨げられない(小早川光郎他『条解行政不服審査法』270頁)のであるから、申請拒否処分を取り消す裁決の拘束力そのものは、申請要件が充足しているという判断にまで及ぶものではないのである。
 したがって、原告が、被告が本件変更承認申請を承認しないことについて本件各規定に違反する法令違反があるとして、地自法245条の8第1項の要件に該当するというのであれば、本件において、具体的に本件変更承認申請が本件各規定の要件充足性を主張立証することが必要不可欠であるにもかかわらず、訴状においては何らこのような主張立証はなされていない。よって、訴状における主張のみによって被告に対して本件変更承認申請の承認を命ずることはおよそ不可能といわねばならない。
 (3) 「各大臣の処分に違反するもの」及び「法定受託事務の管理若しくは執行を怠るもの」について
 ア 次に、原告は、「原告の行った本件指示に違反するものとして『各大臣の処分に違反するものがある場合』」に該当する、あるいは、「本件指示によって課される義務を怠っていまだに同申請を承認しないものとして『法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合』」に該当する、とも主張している。
 これらはいずれも本件指示に違反している、ということを理由とするものである。
 イ(ア) ところで、原告は、地自法245条の8第1項にいう「各大臣の処分に違反するもの」との要件につき、本件指示が当然に「各大臣の処分」に該当するように主張するが、これは誤りである。この「各大臣の処分」とは、「法律又はこれに基づく政令の規定による各大臣の許認可等の処分に当たる処分」を指すとされている(松本英昭「新版逐条地方自治法第9次改訂版」1169頁)。是正の指示に対して、一般には「地方公共団体は、その『指示』された是正又は改善のための措置の内容に従わなければならない。」(前掲松本1163頁)とされているが、是正の指示そのものには行政処分のような公定力や不可争力などの効力が付与されているわけではなく、是正の指示を受けた地方公共団体がそれに従わないことも可能であった。このために、平成24年地方自治法改正により、平成11年の第一次地方分権改革のときには一旦見送られていた国による是正の指示等に対する地方公共団体の不作為について国が違法確認訴訟を提起しうる道を開いたのである(地自法251条の7)。この不作違法確認訴訟の制度からもみられるとおり、地自法245条の7による是正の指示は、一般の処分とは全く異なる形式の地方公共団体に対する公権力の行使であることから、これが上記の「各大臣の処分」にあたらないことは明らかである。
 (イ) また、地自法245条の8の代執行制度は、法定受託事務の処理ないし管理・執行の適正を図るために「国の関与」の一つとして法令所管大臣に与えられた権限であり、同法245条の7の是正の指示も同様の制度であって、これらはそれぞれ、法令所管大臣が有する要件効果の異なる選択肢である。したがって、代執行手続をするに際してすでに是正の指示をしていることが「本項(地自法245条の8第1項)から第八項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困難」か否かについての判断要素にはなるとしても、是正の指示自体が、法令違反の内容になったり、「各大臣の処分に違反するもの」にいう「各大臣の処分」に該当したり、あるいは「法定受託事務の管理若しくは執行を怠るもの」にいう「法定受託事務の管理若しくは執行」の対象となりうるものではない。あくまでも、その所管する法令に関する法定受託事務の処理にかかる事項そのものについて、法令所管大臣が「当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置」を明らかにして必要な指示をするのが是正の指示であり、是正の指示そのものは、法定受託事務の処理を是正するために法令所管大臣が有する手段に過ぎない。代執行手続は、各大臣が「その所管する法律若しくはこれに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行」に対して法令を所管する立場から是正を図るものであるから、本件に即して言えば、原告が所管する埋立法の規定(原告によれば本件各規定)についての処分違反や管理執行の懈怠を具体的に主張立証しなければならない。したがって、地自法所定の是正の指示そのものが「各大臣の処分」にならないことは当然であり、さらに是正の指示に従わないというだけの事実が「法定受託事務の管理若しくは執行を怠るもの」にもならないのも当然である。
 このことは、地自法245条の7と同法245条の8の規定の仕方の違いからも明らかである。すなわち、「是正の指示」は「都道府県の法定受託事務の処理」に対してなされるものである一方、「代執行等」は「都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行」に対してなされるものである。ここにいう「事務の処理」は、地自法2条にいう地方公共団体が担任するものである(例:地自法2条2項「普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。」)。これに対して「管理若しくは執行」は、同法138条の2において、普通地方公共団体の執行機関が「当該普通地方公共団体の事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務を負う。」とされ、あるいは同法148条において「普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体の事務を管理し及びこれを執行する。」とされているとおり、地方公共団体の執行機関が担任するものである。このとおり、地方公共団体に対する規律とその執行機関に対する規律はそれぞれ区別されているのである。この点からも、同法245条の7にいう是正の指示が、直接、同法245条の8にいう「各大臣の処分」や「法定受託事
務の管理若しくは執行」を義務づけるものにあたらないことは明らかである。
 (ウ) よって、原告は、被告が本件変更承認申請について承認処分をしていないことが「各大臣の処分に違反する」もしくは「法定受託事務の管理若しくは執行を怠る」と主張するのであれば、具体的にその所管する埋立法のどこにどのように該当するのかについて具体的に主張立証をすべきである。
 ウ 改正前の旧地自法151条の2に基づく職務執行命令訴訟において、最高裁判所平成8年8月28日大法廷判決(以下「平成8年最高裁判決」という。)は、その司法審査の範囲について次のとおり判示した(下線部は引用者)。
 「都道府県知事は、地方住民の選挙によって選任され、当該都道府県の執行機関として、本来、国の機関に対して自主独立の地位を有するものであるが、他面、法律に基づき委任された国の事務を処理する関係においては、国の機関としての地位を有し、その事務処理については、主務大臣の指揮監督を受けるべきものである(国家行政組織法一五条一項、地方自治法一五〇条)。しかし、右事務の管理執行に関する主務大臣の指揮監督につき、いわゆる上命下服の関係にある国の本来の行政機構内部における指揮監督の方法と同様の方法を採用することは、都道府県知事本来の地位の自主独立性を害し、ひいては地方自治の本旨にもとる結果となるおそれがある。
 そこで、地方自治法一五一条の二は、都道府県知事本来の地位の自主独立性の尊重と国の委任事務を処理する地位に対する国の指揮監督権の実効性の確保との間の調和を図るために職務執行命令訴訟の制度を採用しているのである。そして、同条が裁判所を関与させることとしたのは、主務大臣が都道府県知事に対して発した職務執行命令の適法性を裁判所に判断させ、裁判所がその適法性を認めた場合に初めて主務大臣において代執行権を行使し得るものとすることが、右の調和を図るゆえんであるとの趣旨に出たものと解される。
 この趣旨から考えると、職務執行命令訴訟においては、下命者である主務大臣の判断の優越性を前提に都道府県知事が職務執行命令に拘束されるか否かを判断すべきものと解するのは相当でなく、主務大臣が発した職務執行命令がその適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断すべきものと解するのが相当である。」
 すなわち、現在における法定受託事務が機関委任事務とされていた時代であってさえ、「上命下服の関係にある国の本来の行政機構内部における指揮監督の方法と同様の方法を採用することは、都道府県知事本来の地位の自主独立性を害し、ひいては地方自治の本旨にもとる結果となるおそれがある」ことから、職務執行命令訴訟における司法審査においては、「主務大臣の判断の優越性を前提に」するのではなく、「適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断すべき」とされているのである。ましてや、国と地方公共団体が対等・協力の関係にあることをふまえ、機関委任事務を廃止して法定受託事務が採用されている今日の地自法のもとにおいては、一層このことが妥当する。
 本件において原告は、本件指示に反するとすることをもって上記要件を充足していると主張している。しかし、本件指示の内容は、本件変更承認申請について本件各規定の要件を充足しているから承認処分をせよ、というものであり、その内容の適法性は、本件最高裁判決について述べたとおり、司法審査によって何ら最終的な結論が得られていない。そして本件裁決は、本来上級庁・下級庁の関係にない法定受託事務の法令所管大臣と都道府県の間で、法令所管大臣が地自法255条の2という行審法4条の特則によって認められた審査庁としての立場で裁決をなしたものである。結局、本件裁決は、機関委任事務を法定受託事務に衣替えした後においても、従前の「上命下服の関係にある国の本来の行政機構内部における指揮監督の方法」と何ら変わらないものとなっている。したがって、上記平成8年最高裁判決が判示したところによれば、単に本件裁決があることを本件指示の適法性の根拠とした本件最高裁判決の内容をもって、本件指示の適法性の内容審査をすることなく地自法245条の8に基づく代執行訴訟の要件審理をすることは許されない。代執行手続が、地方公共団体の処分権限を国が奪うという地方自治に対する最終的な介入手段であるからこそ、改めてその要件審理では、「各大臣の処分」の適法性や「本件指示によって課される義務」の適法性の内容審理がなされなければならない。
 よって、この点においても、本件変更承認申請を承認すべきという本件各規定にしたがった要件充足性が審理されなければならず、かかる主張を欠落させている原告の主張は失当である。

 2 地自法245条の8第1項から第8項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困難であるかについて
 (1) 代執行手続の位置付け
 平成7年の衆参両院の地方分権決議に始まった地方分権改革は、平成11年の地自法改正で一定の成果をあげた。すなわち、国の包括的な指揮監督権(許認可権、訓令権、監視権、取消停止権等)に基づく関与を可能としていた機関委任事務制度を廃止し、関与の法定主義(地自法245条の2)及び関与の必要最小限度原則等の関与の基本原則(地自法245条の3)を定め、一般法としての地自法として関与の基本類型を限定的に列挙し(地自法245条)、個別法としての地自法としては、この関与の基本類型から選択し、直接、地自法に基づいて行うことができる関与を列挙することで(地自法245条の4から245条の8まで)、現行の地自法上の関与法制が成立した。
 このように現行の地自法は、一般的・包括的な国の優越性を前提とした機関委任事務を廃し、国と地方公共団体の関係の対等性を前提として法定受託事務を地方公共団体の事務と整理したものである。
 もとより、国の地方公共団体に対する関与は地方自治に対する重大な侵害行為となり得るものであり、最高裁判所昭和35年6月17日第二小法廷判決において指摘され、平成8年最高裁判決においても「都道府県知事本来の地位の自主独立性を害し、ひいては地方自治の本旨にもとる結果となるおそれがある。」と指摘されているものである。このことに加えて、国と地方公共団体の関係の対等性を前提として、法定受託事務を地方公共団体の事務と整理した地方分権一括法の趣旨に鑑みれば、現行の地自法においては、国といえども、法定受託事務については事務を託された地方公共団体の長の判断をより一層の厳格さと慎重さをもって尊重すべきであり、また、関与を行うに際してもできる限り権力的・一方的な関与は謙抑的でなければならない。
 また、個別法としての地自法は、同法245条の4が技術的助言や資料の提出要求を定めていることにはじまり、是正の要求・勧告・指示等のいわばソフトな手段を関与の基本類型として定め、その上で、同法245条の8において「本項から第八項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困難」であることを求めるとともに、代執行訴訟の提起の要件として同法第245条の7等とは別に、勧告及び指示を行うことが定められているとおり、代執行手続は関与法制の中においても、やむを得ない最終手段として位置付けられているのである。この点、代執行手続と職務執行命令手続とでは、「本項から第八項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困難」という文言こそ異ならないものの、その対象となる事務の整理自体が抜本的に転換されている以上は、代執行手続により地方公共団体の事務たる法定受託事務を託された地方公共団体の長の判断を直接に否定することは、職務執行命令との比較においても格別の慎重さが求められる。
 以上のとおり、代執行手続が地方公共団体の長の判断を直接否定するものであること、また、地方分権改革の趣旨に鑑みたとき、「本項から第八項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困難」という要件の充足性は、地自法上の個別関与に限定されず、あらゆる方法を検討した上で、他の方法が存在しないことを要すると解すべきである。
 (2) 国の取り得る是正措置(国と沖縄県との対話)
 ア 対話は、あらゆる紛争を解決するための基本的な解決方法である。
 しかし、国は対話による問題解決の途を放棄して今日に至っている。
対話による解決の努力を怠り、これを放棄してきたことは、そもそも「本項から第八項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図る」ことさえ試みなかったものであり、試みなかったにもかかわらず「是正を図ることが困難」と言うことはできないものである。
 イ 以下において、本件変更承認申請がなされる約半年前から本件訴訟の提起までの間に、被告が国に対し、本件埋立事業に関する問題解決に向けた対話を求めてきたこと、それに対し、国が一顧だにせず、被告の求めを無視してきた事実を明らかにする。
 (ア) 被告は、令和元年6月22日、河野太郎外務大臣に対し、以下の内容の要望書を提出した(乙4号証)。
 「辺野古新基地建設については、今年の2月24日に沖縄県で行われた『辺野古新基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票』において、辺野古埋立てに絞った反対の民意が圧倒的多数で明確に示されたことは、極めて重いものであります。
 政府は、その民意をしっかりと受けとめ、直ちに埋立工事を中断し、問題解決に向け、県との対話に応じるべきであると考えております。」
 「県としては、辺野古新基地建設問題は、対話によって解決策を求めていく民主主義の姿勢によって解決していくことが重要と考えており、政府においては、『辺野古移設が唯一の解決策』との固定観念にとらわれることなく、県民の声に真摯に耳を傾け、辺野古の美しい海を埋め立てる現行移設計画を断念していただきたいと考えております。」
 (イ) 被告は、その後も、令和元年9月5日、岩屋毅防衛大臣に対し、同月13日、衛藤晟一沖縄及び北方対策担当大臣に対し、更に同月29日、河野太郎防衛大臣に対し、それぞれ国と沖縄県との対話を求める同趣旨の要望書を提出した(乙5号証乃至乙7号証)。
 (ウ) しかし、このような被告の対話による解決を求める一連の要望に対して、国は何ら具体的な対応をすることもなく、被告の対話の要望を無視し続け、令和2年4月21日、沖縄防衛局による本件変更承認申請がなされた。結局、国と沖縄県との間では、問題解決に向けた被告の呼びかけを一切無視した形で、何らの対話も行われることなく、本件変更承認申請がなされたのである。
 (エ) 被告は、本件変更承認申請を受けた後も国に対して、問題解決
に向けた対話を求め続けた。
 (オ) 被告は、令和2年9月19日、河野太郎沖縄及び北方対策担当大臣に対し、問題解決に向けて国と沖縄県との対話を求める次の内容の要望書を提出し(乙8号証)、改めて要望した。
 「沖縄県は、辺野古に新基地は造らせないということを県政運営の柱として取り組んでおります。
 辺野古新基地建設に反対する県民の民意は、過去2回の知事選挙をはじめ、一連の選挙において示され続けてきております。また、昨年2月に行われた辺野古埋立てに絞った県民投票において
も、反対の民意が圧倒的多数で明確に示されたことは、極めて重いものであります。
 政府は、その意義をしっかりと受けとめ、直ちに埋立工事を中断し、問題解決に向け、県との対話に応じるべきであると考えております。
 また、安全保障の負担は日本全国で担うべきとの認識の下、普天間飛行場の県外、国外移設に取り組んでいただきたいと考えております。
 普天間飛行場は、市街地の中心部に位置しており、住民生活に著しい影響を与えていることから、周辺住民の航空機事故への不安や騒音被害などを解消することが喫緊の課題となっており、同飛行場の早期閉鎖・返還及び一日も早い危険性の除去は県民の強い願いであります。
 普天間飛行場の早期閉鎖・返還を実現するためには、改めて県外、国外移設を追求し、同飛行場の固定化を避ける方策を検討し、講ずる必要があります。また、返還するまでの間においても、その危険性を放置することはできないことから、日米両政府において具体的なスケジュールを作成し、直ちに、所属機の長期ローテション配備による訓練移転-を行うなど一日も早い危険性の除去及び騒音の軽減に取り組んでいただく必要があります。
 つきましては、下記のとおり要望します。
 記
 (1) 県民の理解が得られない辺野古移設計画を断念すること。
 (2) 普天間飛行場の固定化を避け、県外、国外移設及び早期閉鎖・返還に取り組むこと。
 (3) 普天間飛行場については、沖縄県民の思いを真摯に受け止め、辺野古移設とは関わりなく、速やかな運用停止を含む一日も早い危険性の除去に真剣に取り組むこと。」
 しかし、被告のこの呼びかけに対しても、国はこれを無視し、何ら具体的な対応を取らなかった。
 (カ) 被告は、令和2年10月7日、菅義偉総理大臣と首相官邸で会談した際、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設について「対話による解決を求める。」として、政府と沖縄県による協議の場の設置を求めたが、総理大臣から明確な回答はなかった(乙9号証の1及び2)。
 (キ) 被告は、令和2年10月10日、加藤勝信官房長官に対し、国と沖縄県との対話を求める要望書を提出した(乙10号証)。
 (ク) 被告は、令和2年10月22日、岸信夫防衛大臣に対し、本件変更承認申請の問題に言及する要望書を提出した。その中で、被告は、本件埋立ての予定海域内に軟弱地盤が発見されたことに触れ、「辺野古新基地建設については、軟弱地盤の存在が明らかとなり、防衛省は、統合計画に示されている提供手続の完了までに要する期間が約12年になると公表しております。そのため、沖縄県としては、辺野古移設では、普天間飛行場の一日も早い危険性の除去につながらないことが明確になったものと考えております。」と指摘し、問題解決に向けて、国と沖縄県との対話を求めた(乙11号証)が、国はこれを無視した。
 (ケ) 被告は、令和3年5月27日、菅義偉総理大臣に対し「本土復帰に向けた在沖米軍の整理・縮小について(要請)」と題する要請書を提出した。その中で被告は「防衛省は、総工費が約9,300億円になることも公表していますが、今回公表された総工費は現時点での検討を踏まえたもので、今後、さらに、工期が延び、総工費が膨れ上がる可能性があります。
 仮に、辺野古新基地を十数年もかけて完成させたとしても、軟弱地盤の影響により、不同沈下が起きることは専門家も指摘するところであり、そうなると基地機能の維持にも膨大な予算を要することとなり、却って米国の信頼を著しく損なう事態になるのではないかと考えております。
 辺野古新基地計画はもはや『唯一の解決策』にはなり得ず、完成すら困難であり、民主主義や環境破壊のみならず、財政や安全保障の観点から見ても現行案のような『大規模で恒久的な新基地建設』は合理的ではなく、新たな打開策を見いだすことが日本全体、また日米同盟にとっても有益であります。
 政府は、辺野古新基地建設計画を見直し、辺野古移設を前提とすることなく、本来の目的である普天間飛行場の速やかな危険性の除去と運用停止を可能にする方策を見いだすべきであります。」
と訴えた(乙12号証)。
 (コ) 被告は、令和3年10月9日、西銘恒三郎沖縄及び北方政策担当大臣に対し、同年11月6日、松野博一官房長官に対し、それぞれ問題解決に向けて国と沖縄県との対話を求める要望書を提出した(乙13号証及び乙14号証)が、国は一切応答しなかった。
 (サ) そして、国との対話を求める被告の要望が実現されることがな
い中、令和3年11月25日、被告は本件変更不承認処分をした。
 本件変更不承認処分に対しても、国は、沖縄県との対話による問題解決を図ることを全く行おうとせず、対話の場が設けられないまま、沖縄防衛局は、令和3年12月7日付けで原告に対して審査請求をした。
 (シ) 原告は、令和4年4月8日付けで、被告がなした本件変更不承認処分を取り消す本件裁決をした。沖縄防衛局の審査請求に対して法令所管大臣である原告が行う審査であり、いわば身内による審査手続であるから、公平性、中立性が担保されないまま、沖縄防衛局の主張をそのまま受け入れる形で、本件変更不承認処分を取り消す本件裁決がなされた。
 (ス) 本件裁決後、国と沖縄県との間で、問題解決に向けた話合いがなされるべきであったが、原告は、本件裁決がなされた日と同日付で、本件変更承認申請について承認するよう勧告(以下「本件勧告」という。)した。本件裁決から本件勧告まで間髪をいれないものであった。本件勧告は令和4年4月20日までに、本件変更承認申請について承認することを被告に求めるものであった。被告が行った本件変更不承認処分の理由や問題解決について、国と沖縄県との対話の場が持たれないまま、本件勧告が出された。
 被告は、令和4年4月20日付けで、本件勧告に対し「令和4年4月20日までに承認することに対する判断を行うことはできません」と回答した。
 併せて、被告は、同日付けで、岸田文雄総理大臣に対し「辺野古新基地建設問題に関する対話について」と題する書面を提出し、「問題解決に向け、埋立工事を中断し、県との対話に応じるべきであると考えており、改めて沖縄県と対話を行うよう求めます。」と要望した(乙15号証並びに乙16号証の1及び2)
 (セ) しかし、原告は、令和4年4月28日付けで、対話ではなく本件指示をした。
 (ソ) 被告は、本件指示後の令和4年5月10日、岸田文雄総理大臣と面会して復帰50年建議書を手交した。その際、被告から「ぜひ辺野古の問題についても総理と私が対話する場を設けていただき、真摯な対話によって解決する方法を模索させていただきたい」と要請した(乙17号証の1乃至3)が、実現することはなかった。
 (タ) 被告は、令和4年5月30日付けで、本件指示に不服があるとして、国地方係争処理委員会に対し、原告を相手方として審査の申出をした。
 (チ) 被告は、令和4年6月23日(慰霊の日)、岸田文雄総理大臣に対し、国と沖縄県との対話の場を設けるよう要請した(乙18号証)が、結局対話の場は設けられなかった。
 (ツ) その後、国地方係争処理委員会は、令和4年8月19日付けで、本件指示は違法ではないとの結論を示したことを受け、被告は、令和4年8月24日、本件指示の取消しを求める訴えを御庁に対し提起した。
 この間、被告が求める対話による解決について、国からは一切応答がなかった。
 (テ) 被告は、令和4年9月14日、岡田直樹沖縄及び北方対策担当大臣に対し、「政府が唯一の解決策とする普天間飛行場の辺野古移設については、軟弱地盤の存在が判明し、提供手続きの完了までに約12年を要するとされ、さらに、令和3年11月に公有水面埋立変更承認申請が公有水面埋立法に照らした厳正な審査の結果、不承認となり埋立工事全体を完成させることがより困難な状況となったことから、沖縄県としては、辺野古移設では普天間飛行場の一日も早い危険性の除去につながらないと考えております。」と訴え、問題解決に向けた沖縄県との対話に応じることを求めた(乙19号証)。
 (ト) 被告は、令和4年9月28日、浜田靖一防衛大臣に対し、「県としては、辺野古新基地建設問題は、対話によって解決策を求めていく民主主義の姿勢により解決していくことが重要と考えており、政府においては、『辺野古移設が唯一の解決策』との固定観念にとらわれることなく、県民の声に真摯に耳を傾け、辺野古の美しい海を埋め立てる現行移設計画を断念し、問題解決に向けた沖縄県との対話に応じていただきたいと考えております。」と国と沖縄県との対話を要望した(乙20号証)。
 (ナ) 被告は、令和4年10月3日、松野博一官房長官との面会の中で、基地問題や沖縄の抱える様々な課題の解決に向けた集中協議の場を設けることを提案した。同長官は、「辺野古移設の問題について、話し合いは重要」との認識を示したが、「まずは既存の枠組みを活用して話合いをさせていただきたい。」と回答し、被告が求める話合いの場は、現在まで設けられていない(乙21号証)。
 (ニ) 被告は、令和5年1月18日、参議院政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会三原じゅん子委員長に対し、問題解決に向けた国と沖縄県との対話に応じるべきであるとの要望書を提出し(乙22号証)、同要望書において、「辺野古新基地建設に反対する県民の民意は、辺野古新基地建設の是非が大きな争点となった過去3回の知事選挙をはじめ、平成31年2月に行われた辺野古埋立てに絞った県民投票においても反対の民意が圧倒的多数で明確に示されております。
 加えて、政府が唯一の解決策とする普天間飛行場の辺野古移設については、軟弱地盤の存在が判明し、提供手続きの完了までに約12年を要するとされ、さらに、令和3年11月に公有水面埋立変更承認申請が公有水面埋立法に照らした厳正な審査の結果、不承認となり埋立工事全体を完成させることがより困難な状況となったことから、沖縄県としては、辺野古移設では同飛行場の一日も早い危険性の除去につながらないと考えております。」等と述べ、国会に対しても被告の立場を訴えた。
 (ヌ) 御庁は、令和5年3月16日、被告の請求を棄却する判決を言い渡したことから、被告は、令和5年3月23日付けで、最高裁判所に対して上告受理申立てを行った。
 (ネ) また、被告は、令和5年7月20日、衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会松木けんこう委員長に対し、同年1月18日の三原じゅん子委員長に宛てた要望書と同趣旨の問題解決に向けた国と沖縄県との対話に応じるべきであるとの要望書を提出した(乙23号証)。
 (ノ) 最高裁判所は、令和5年9月4日、本件指示は適法であるとする判決(本件最高裁判決)を言い渡した。原告は、令和5年9月19日付けで、本件変更承認申請を承認するよう勧告した。
 被告は、同勧告に対して、令和5年9月27日付けで、「判決の内容を精査した上で対応を検討する必要があること、また、県民、行政法学者等から様々な意見が寄せられており、県政の安定的な運営を図る上でこれら意見の分析を行う必要がある」などの理由で、同勧告に示す期限までに承認することは困難であると原告に回答した(甲36号証の2)。
 (ハ) これを受けて、原告は、間髪をいれず令和5年9月28日付けで、本件変更承認申請を承認するよう指示した(以下「本件代執行指示」という。)。
 (ヒ) 被告は、令和5年9月28日、自見はなこ沖縄及び北方対策担当大臣に対し、辺野古新基地建設問題の解決に向けて国と沖縄県との対話を求める要望書を提出した(乙24号証)。
 この要望書において、沖縄県としては、辺野古移設では普天間飛行場の一日も早い危険性の除去につながらないと考えていること、沖縄県としては、辺野古新基地建設問題は、対話によって解決策を求めていく民主主義の姿勢により解決していくことが重要と考えていること、政府においては、「辺野古移設が唯一の解決策」との固定観念にとらわれることなく、県民の声に真摯に耳を傾け、辺野古の美しい海を埋め立てる現行移設計画を断念し、問題解決に向けた沖縄県との対話に応じていただきたいこと等を重ねて要望した。
 (フ) 国が被告の要望に全く耳を傾けることがない中で、被告は、本件代執行指示の期限である令和5年10月4日、「指示の期限までに承認を行うことは困難である」と原告に回答した(甲37号証の2)。
 これを受けて、原告は、令和5年10月5日、本件訴訟を提起した。
 このように本件変更承認申請の前から本件訴訟の提起までの間に、被告は、繰り返し、国に対して問題解決に向けた国と沖縄県との対話を求めてきた。
 それにもかかわらず、国は、かかる被告の要望を無視し、一切対話に応じようとしなかったものである。このような国の対応は、「本項から第八項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困難」との要件を欠いたものであって、地自法245条の8第1項の勧告の要件を欠くものであり、同条2項の指示の要件をも欠くものである。
 (3) 平成28年6月20日付けで示された国地方係争処理委員会の判断が示唆するところ
 原告が被告に対して平成28年3月16日付けで行った地自法245条の7第1項に基づく本件指示について、被告が国地方係争処理委員会に審査の申出をしたことに対し、同委員会は、次のような決定をした。
 「国と地方公共団体は、本来、適切な役割分担の下、協力関係を築きながら公益の維持・実現に努めるべきものであり、また、国と地方の双方に関係する施策を巡り、何が公益にかなった施策であるかについて双方の立場が対立するときは、両者が担う公益の最大化を目指して互いに十分協議し調整すべきものである。地方自治法は、国と地方の関係を適切な役割分担及び法による規律の下で適正なものに保つという観点から、当委員会において国の関与の適否を判断するものとすることによって、国と地方のあるべき関係の構築に資することを予定しているものと解される。
 しかしながら、本件についてみると、国と沖縄県との間で議論を深めるための共通の基盤づくりが不十分な現在の状態の下で、当委員会が、本件是正の指示が地方自治法第245条の7第1項の規定に適合するか否かにつき、肯定又は否定のいずれかの判断をしたとしても、それが国と地方のあるべき関係を両者間に構築することに資するとは考えられない。
 したがって、当委員会としては、本件是正の指示にまで立ち至った一連の過程は、国と地方のあるべき関係からみて望ましくないものであり、国と沖縄県は、普天間飛行場の返還という共通の目標の実現に向けて真摯に協議し、双方がそれぞれ納得できる結果を導き出す努力をすることが、問題の解決に向けての最善の道であるとの見解に到達した。
 以上により、当委員会は、本件是正の指示が地方自治法第245条の7第1項の規定に適合するか否かについては判断せず、上記見解をもって同法第250条の14第2項による委員会の審査の結論とする。」(乙25号証)
 上記の見解は、地自法245条の7第1項の是正の指示に関する決定であるが、国と沖縄県が協力関係を築くべきこと、双方の立場が異なるときは、十分協議し調整すべきものであること、原告と被告との間で議論を深めるための共通の基盤づくりが不十分な状態の下で、是正の指示の適法性について同委員会が判断することは、地自法の趣旨に適わないと述べている。
 この見解は、国と沖縄県との対話による問題の解決の重要性を説くものであって、この理は、本件においてもそのまま妥当するものであるといえる。
 (4) このように、十分な対話の場が設けられないままに地自法245条の8第1項の勧告、同条第2項の指示がされることは、「本項から第八項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困
難」との要件を充足しないものと言わざるを得ず、かかる勧告及び指示は違法である。 以上に述べたことからすれば、原告が主張する公益侵害は抽象的なものにとどまっており、「著しく公益を害することが明らか」とは到底言えないことは明らかである。
 また、既に述べたとおり、「著しく公益を害することが明らか」という要件は、地方公共団体の違法等な事務処理を強制的に是正することが、住民自治、団体自治の観点からも許容できるのかという観点からの公益を考慮した上で判断されるべきところ、以下では、かかる観点から、民意について述べる。
 すなわち、住民自治、団体自治の観点から、本件において地域住民の自己決定を踏みにじることは、あってはならないことなのである。
 ア 概略
 原告が高らかに主張する普天間飛行場の危険性の除去等は、普天間飛行場の周辺において、現に生命・身体、生活に被害を受けている地域住民の基本的人権の救済に係る重大な事項である。
 そうであれば、なぜ、沖縄県民は、辺野古新基地建設に反対するのであろうか。
 それは、原告がいう普天間飛行場の危険性の除去等が空虚なものであることを、沖縄県民が身をもって知っているからである。
 以下では、沖縄県民の民意について述べ、その背景にある沖縄戦以降78年の歴史的経緯等について述べる。
 イ 沖縄県民の民意
 沖縄県民は、後述するとおり、極めて重い基地負担にさらされてきたため、基地の過重負担に対して、絶えず反対の民意を示してきた。
 平成7年9月4日の少女暴行事件を受けて、平成7年10月21日には「基地の整理縮小、地位協定の見直し等を求める県民総決起大会」が開かれ、8万5000人が参加した。
 平成8年9月8日には県民投票が実施され、約89パーセントが「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小」に賛成している。
 その後、SACO合意により普天間飛行場の県内移設が取りざたされたが、県民は名護市民大会や県民大会を開き、反対の意思を表示し続けた。
 平成22年11月28日の沖縄県知事選挙においても、仲井眞知事は、「日米合意の見直しと普天間基地の県外移設の実現」を強く求めることを公約として掲げて当選したのである。
 ところが、仲井眞知事が公約に反して本件承認処分を行ったところ、沖縄県民は強い怒りを示し、本件承認処分後の平成26年11月16日に実施された沖縄県知事選挙では、辺野古新基地建設に反対する翁長雄志が仲井眞知事に、実に約10万票の大差をつけて当選した。
 さらに、翁長知事の死去に伴い平成30年9月30日に実施された沖縄県知事選挙でも、やはり辺野古新基地建設に反対した玉城康裕が過去最多の39万6,632票を獲得して当選し、令和4年9月11日に実施された沖縄県知事選挙でも再選している。
 また、辺野古新基地建設以外にも投票要素が存在する首長選挙とは異なり、平成31年2月に実施された、純粋に辺野古埋立ての賛否に絞った県民投票においても、投票者総数の約72パーセント、約43万人の圧倒的多数の反対の民意が示された。
 このように、辺野古新基地移設に反対する民意は極めて明確であるが、なぜ沖縄県民は反対するのか。
 それは、沖縄戦から一貫して沖縄県民に課されてきた過重な基地負担と、自己決定を否定され続けてきた歴史的経緯、国が唱える基地負担軽減の空虚さに由来する。
 ウ 沖縄県民の民意の背景にあるもの(別紙で米軍基地の形成過程についてまとめるが、以下では適宜要約する)
 (ア) 基地の形成・集中過程
 a 琉球処分
 沖縄県は、元々琉球王国という独立国家であったところ、1609年、薩摩藩に武力で侵攻され、以後、薩摩藩と清国両属の政治形態を余儀なくされた。
 明治政府下における1871年の廃藩置県に際して、琉球国は、一旦、鹿児島県の管轄下に置かれたが、1872年には鹿児島県から引き離されて琉球藩として創設され、1879年、明治政府は武力派兵をして琉球藩の抵抗を抑圧し、沖縄の廃藩置県を断行した(いわゆる琉球処分)。
 琉球処分は、単なる内政整備にとどまらず、1871年に起こった宮古島島民が台湾に流れ着き、現地民に殺害された事件を契機に、当時清国にも両属する状態にあった琉球国を清国から切り離すことを眼目としてなされたもので、そのため、他の藩とは異なり、廃藩置県に続く封建的領有制解体の諸改革が大幅に遅らされた。
 沖縄県は、その成り立ちの当初から、沖縄の特異な地理的・歴史的地位に鑑みて、国権優位から対処されていたのである。
 b 沖縄戦
 その後、沖縄県は、太平洋戦争において、一般住民を巻き込んだ凄惨な地上戦を体験し、この過程で米軍基地が形成された。
 元々、太平洋戦争直前まで、沖縄県には本格的な軍事施設は存在しなかったが、太平洋戦争の最中に旧日本軍は飛行場を次々設置した。
 しかし、旧日本軍は、方針を本土決戦に備えた持久戦に切り替え、地上戦直前に、嘉手納、読谷、伊江島の各飛行場を破壊、放棄した。
 1945年3月26日に慶良間列島に、4月1日には沖縄本島に米軍が上陸し、それと同時にいわゆるニミッツ布告を発して軍政府を設立し、南西諸島の軍政施行を宣言した。
 米軍は上陸後すぐに旧日本軍の飛行場を占拠して作戦使用を始めるとともに、新たな飛行場等の建設も進めていった。
 鉄の暴風と呼ばれる徹底した艦砲射撃や空爆とともに、悲惨な地上戦が繰り広げられ、旧日本軍の持久戦の方針も相まって、沖縄県出身者12万人以上を含む約20万人が犠牲となり、当時の沖縄県の人口の約4分の1が亡くなった。
 米軍は、捕虜とした沖縄県民のほとんどを北部、中部の収容所に収容し、その間に欲しいままに土地を接収し、米軍基地を建設していった。
 普天間飛行場も、沖縄戦の最中に宜野湾集落などの複数の集落や農地を接収して作られたものである。
 終戦直後の沖縄島の人口は約32万人余りであったが、うち25万人が米軍による土地接収のために転地させられている。
 また、米軍が接収した土地のほとんどが農民の耕作地や宅地であったことから、耕地面積は激減し、農民の生活は壊滅的な打撃を受け、戦後の沖縄県民の生活は辛苦を極めるものとなった。
 c 沖縄戦後の基地形成・集中過程
 沖縄戦後、中華人民共和国の成立や朝鮮戦争勃発等の情勢変化を受けて、米軍は沖縄の恒久的保有を決定し、さらに土地の接収を行っていった。
 1951年9月8日、対日平和条約及び旧安保条約が締結され、翌1952年4月28日、同時に発効したが、これらにより、沖縄は日本から分離され、米軍の施政権下に置かれることとなった。
 日本国の潜在主権が及んでいるという論理により、沖縄は米国の憲法も、日本国憲法の保障も及ばない、いわば憲法番外地となった。
 独立国家となった日本から旧安保条約により提供される本土の在日米軍基地とは異なり、沖縄においては、米軍は自由に土地を接収して基地を建設し、自由に使用できる(核持ち込みを含む)状況に置かれたのである。
 米軍の施政権下において、米軍はいわゆる銃剣とブルドーザーにより強制的に土地を接収し、さらに基地を拡大していった。
 本土では1952年の対日平和条約発効から1960年の安保条約成立までの間に、約26万人いた在日米軍は約6分の1に減少し、日本本土の米軍基地面積は約4分の1に減少していた一方、沖縄において米軍基地は増加していたのである。
 沖縄は1972年5月15日に日本に復帰したが、本土並み返還を要求する沖縄県民の声は届かず、日本政府は公用地法、地籍明確化法、駐留軍用地特措法により、土地の使用権原を取得した上で、ほぼそのまま米軍基地を提供し続けてきた。
 1960年代後半から1970年代半ばにかけて、本土においては、安保闘争を受けて、米軍基地は約3分の1に減少したが、沖縄の米軍基地は復帰前後で1割程度しか減少せず、この結果、国土面積の約0.6パーセントに過ぎない沖縄に在日米軍基地(米軍専用施設)の約4分の3が集中するという、今に至る構造が完成した。
 なお、普天間飛行場が第36海兵航空群のホームベースとなったのは1969年のことであり、元々は厚木基地に所在していた同群が、同基地の航空機騒音被害軽減のために、普天間飛行場に移駐してきたものである。
 日本本土における基地負担を軽減させるという政治目的のために、日本国憲法も米国憲法の保障も及ばない沖縄に米軍基地が集中してきたのであって、日本本土と沖縄との対比における地理的・軍事的な理由ではなかったのである。
 (イ) 現在の基地の概況
 沖縄県には、令和3年3月末現在、31施設、約1万8483ヘクタールの米軍専用施設が存在する。沖縄県全体の面積の約8.10パーセントが米軍施設にあたり、沖縄島についてみると、その面積の約14.4パーセントが米軍専用施設となっている。
 全国の約0.6パーセントに過ぎない沖縄県に、米軍専用施設の約70.3パーセントが集中しており、復帰時点から大きく減少していない。
 また、陸地のみならず、沖縄島を取り囲んで訓練水域や空域が極めて広範に設定されている。
 (ウ) 基地被害の概況
 米軍基地を巡っては、基地騒音による恒常的な被害のほか、米軍施政権下から復帰後、現在に至るまで、航空機の墜落事故や落下物事故、米軍による犯罪等が多発している。
 嘉手納飛行場、普天間飛行場は、住宅地に極めて隣接しているため、基地騒音により周辺住民を中心とした広範な範囲の住民に、会話妨害、学校における授業の中断、テレビ等の視聴妨害のような生活被害や、聴力異常や夜間騒音による睡眠障害等の健康被害、低出生体重児の出生率の上昇、幼児の身体的、精神的要観察行動の増加等、恒常的な被害をもたらしている。
 周辺住民による訴訟が繰り返し提起され、受忍限度を超える違法な爆音被害が継続的に認定され、損害賠償は認められている。
 しかし、差止請求については、国は米軍の航空機等の運航を規制する権限を持たないため、国に対して米軍の行為の差止を求めることはできないとするいわゆる第三者行為論が、他ならぬ国自身により主張され、このような主権国家にあるまじき論理により差止請求は棄却され続けている(嘉手納基地について、第一次訴訟の提訴が昭和57年、普天間飛行場について第一次訴訟の提訴が平成14年である)。
 また、11人の児童を含む17人の死者と210人の重軽傷者を出した昭和34年の宮森小学校墜落事故や沖縄国際大学へのヘリコプター墜落事故等、飛行機やヘリコプターの墜落事故や、航空機の部品落下事故は繰り返し起きており、復帰後だけでも、固定翼機とヘリコプターを合わせて墜落が49件、部品等落下が77件、不時着が642件等生じている(令和3年12月末現在)。
 その他、米軍演習による原野火災や、パラシュート降下訓練に伴う事故、被弾事故、赤土、PCB、劣化ウラン、油状物質(タール状物質)、六価クロム、鉛、フッ素、ヒ素、鉛、アスベスト、ダイオキシン、近時ではPFAS等の流出、汚染等が多発しており、平成7年9月4日の少女暴行事件等、米軍人等による事件・事故も枚挙に暇がなく、沖縄県内では、毎日のように米軍人等による何らかの事件・事故が報道されるような状況にある。
 日米地位協定上、米軍基地内は米国に排他的管理権が認められ(日米地位協定3条1項)、基地内には日本国の官憲の立入りもできない。
 沖縄国際大学へのヘリコプター墜落事故の際に、沖縄県警察が事故調査ができなかったことや、PFAS汚染についての沖縄県の立入調査による原因究明が困難である状況、各爆音訴訟における第三者行為論等に端的に表れているとおり、事実上、米軍基地は治外法権が存するにも等しく、米軍基地は自治権の空白地帯をもたらしているのである。
 (エ) 国の辺野古新基地建設による普天間飛行場の危険性の除去等という建前が空虚であること
 一方で、上述した第三者行為論を、他ならぬ国が何十年にわたり主張してきたことに象徴されるとおり、国は、普天間飛行場の危険性等を放置し続けてきた。
 第三者行為論は、現在の条約や国内法を前提として、米軍の航空機の運用を規制する権限が国にない、という論理であって、当然のことながら、地位協定を改定すれば、運航を規制する権限を取得することは可能である。
 しかし、国は、違法な爆音被害が繰り返し認定されていてもなお、爆音被害を軽減するための権限を取得する協議を全く行ってきておらず、何十年も繰り返し第三者行為論を主張してきたのである。
 国が支払ってきた爆音被害の賠償金についても、国の立場からは、日米地位協定18条5項(e)(ⅰ)により、米国が75パーセントを負担すべきであるにもかかわらず、国は米国に対して1円も求償請求していない。
 国は、思いやり予算により活動資金を支出し、違法な爆音被害の賠償金は全て肩代わりする一方で、爆音軽減のために航空機の運航を規制する権限を取得するための外交交渉も行ってこなかったのである。
 これでは、米軍のもたらす爆音被害が抑制されるわけがない。
 このような対応をとってきた国が、普天間飛行場の危険性の除去等をうたうことにどれだけの説得力があるのだろうか。
 また、普天間飛行場の県内移設に軍事的な必然性がないことは、防衛大臣を含めた日本政府高官が繰り返し発言しているとおりである(別紙第8・4参照)。
 さらに、米国側の発言からも、国が沖縄県の基地負担軽減のために県外移設に取り組んでこなかったことは明らかである。
 平成7年9月4日の少女暴行事件直後、当時のウイリアム・ペリー国防長官は議会で「日本のあらゆる提案を検討する用意がある」と発言し、ジョセフ・ナイ国防次官補は「日本政府が望むなら部隊を本土に移転することも検討する」と柔軟な姿勢を示していた他、1996年(平成8年)2月1日付の沖縄タイムスのインタビューに対し、スチュワート・ワグナー海兵隊大佐は、「在日米軍基地をどこに配置するかは元来日本政府が決めることだ」と語っている。
 1996年(平成8年)4月12日に行われた橋本首相とモンデール駐日米国大使の共同記者会見において、普天間飛行場返還の合意が発表されたが、この際、日本側から在沖海兵隊の撤退や県外移設の要望がなかったことについて、事後に明らかにされた。
 2004年(平成16年)4月に米国務省付属機関による外交史記録を目的としたインタビューにおいて、モンデール氏は、「少女暴行事件に対する県民の怒りは当然で、私も共有していた。数日のうちに、問題は事件だけではなく、米兵は沖縄から撤退すべきかどうか、少なくともプレゼンスを大幅削減すべきかどうか、米兵の起訴に関するSACOガイドラインを変更すべきかどうかといったものにまで及んでいった。しばらくの間、状況は非常に緊張していた」、「日本側代表者らと私の非公開の議論において、彼らは挫折を望んでいなかった。彼らはわれわれを沖縄から追い出したくなかった」と語っている(平成26年9月13日沖縄タイムス、平成26年9月14日沖縄タイムス)
 さらに、2008年(平成18年)9月の国務省付属機関によるインタビューにおいて、ライス元国務次官補代理(東アジア・太平洋担当)は、日本側は「(沖縄の)どの基地も本土に移すことは望んでいなかった。(本土は)基地を増やすことに反対だったからだ」と述べている(平成27年7月29日沖縄タイムス、平成27年7月30日琉球新報)。
 辺野古新基地建設は、単なる普天間飛行場の移設にとどまらず、基地機能が強化されており、平成11年当時、名護市長が同意した条件であった15年の使用期限もなくなってしまった。
 要するに、辺野古新基地建設は、普天間飛行場の危険性の除去等という名目での新たな基地の固定化にほかならず、本土の基地反対の世論に配慮して沖縄県に基地が集中した頃から、国の姿勢は変化していない。
 さらに指摘するなら、沖縄防衛局は、本件承認処分に係る申請時に、辺野古沖のボーリング調査を実施せず、軟弱地盤がないという前提で5年の工事期間で本件承認処分を得ておきながら、本件変更承認申請に際して、さらに本件変更承認申請時から9年3月の期間がかかるという内容の申請を行っている。
 本件変更承認申請に基づく地盤改良工事は、沖縄県内において前例のない極めて大規模な工事であり、さらに期間が長期化する可能性が高い。
 元々、軟弱地盤が存するC-1護岸からC-3護岸は、承認申請時点では、1年次から着工し、5年次に最後に埋立工事が完成するという内容であったが(つまり、この護岸工事を始めなければ工事の完成は1日も進まない)、本件承認処分後、C-1護岸からC-3護岸については実施設計すらされないまま、本件変更承認申請に至っている。
 要するに、当初から軟弱地盤の可能性を認識していたか、少なくとも極めて容易に軟弱地盤の可能性を知りえたにもかかわらず、とりあえず本件承認処分を得ておいて、直後から改めて検証を進め、後出しで実は5年では完成しないとして本件変更承認申請をしたのである。
 一刻も早い普天間飛行場の危険性の除去等を目的として移設の適地を真摯に検討していたとはとても考えられない対応と言わざるを得ない。
 (オ) 小括
 沖縄県民は、沖縄戦、沖縄戦後の「アメリカ世」、日本復帰後の、それぞれの時代における軍事的被害の記憶を有しており、基地のもたらす被害やその潜在的リスクを日常的に実感している。
 戦後78年間、ある意味で一貫した国の姿勢から、国が唱える普天間飛行場の危険性の除去等が空虚であることも理解している。
 だからこそ、沖縄県民は普天間飛行場の危険性の除去等が、何より優先されるべき問題であり、同時に、辺野古新基地建設に反対し続けているのである。
 エ 沖縄県への新基地建設には沖縄県民の真摯な同意を求めるべきこと
 既に述べたとおり、地方自治の本旨は住民自治、団体自治を内容とし、地方公共団体あるいは地域住民の自己決定を尊重する法原理であり、地自法の規定は地方自治の本旨に適合的に解釈されなければならない。
 代執行は極めて例外的な関与であって、仮に、地方公共団体が違法等な事務処理を行っている場合であってすら、住民自治、団体自治の要請によって国という異なる統治主体による強制的な是正が許されない場合がありうるところ、「著しく公益を害することが明らか」という要件は、住民自治、団体自治の要請の強度に係る公益を考慮要素としている。
 沖縄戦及び米軍基地の形成・集中の過程において、沖縄県民、あるいは沖縄県の自己決定は踏みにじられてきた。
 何が地域住民にとっての公益であるかの判断を、裁判所を含めて、国が沖縄県に押し付けることが、許されるのであろうか。普天間飛行場の危険性の除去等のために新基地を建設することが沖縄県、あるいは沖縄県民のためであるとして、県民が望まない新基地建設を強制的に押し付けることが許されるのであろうか。
 憲法95条は、一の地方公共団体にのみに適用される特別法は、地方公共団体の住民の投票において過半数の同意を得なければならないことを定めるが、これは、地方自治の本旨が機能する一場面を具体的に規定したものである。
 このような憲法の精神に照らせば、一地方公共団体及びその住民の極めて重大な利害に係る政策的意思決定において、当該地方公共団体の住民の意思を無視して行うことは到底許されるべきではない。
 本件において、沖縄県民の明確な民意は、それ自体が、地自法245条の8第1項に定める「公益」として考慮されるべきであって、本件が沖縄県民あるいは沖縄県にとって極めて重大な政策課題であり、沖縄県民の基本的人権の保障に大きくかかわることに鑑みれば、新基地建設にあたっては沖縄県民の真摯な同意を得るべきであって、かかる同意を得ない状況で代執行は認められるべきではない。
 (5) 小括
 本件指示は、原告が主張している公益侵害に関する内容と同一の事情について埋立法4条1項1号の「国土利用上適正且合理的ナルコト」に適合するとしている。本件最高裁判決は本件指示を適法と判断してはいるものの、前述のとおり、本件指示が埋立法4条1項1号及び2号の要件を充足しているという判断を是認したものではなく、単に本件裁決の拘束力を拡張して結論に至ったのみである。したがって、本件において原告が主張している公益侵害の内容の当否についてはこれまで最高裁判所で判断されてはいない。さらに、同一の事実、事情でも、埋立法4条1項1号にいう「国土利用上適正且合理的ナルコト」の要件該当性判断と、地自法245条の8第1項にいう「著しく公益を害することが明らかである」ことの要件該当性判断では、法の趣旨目的や要件そのものが異なるのであるから、同一の判断となるものでもない。
 よって、前記のとおり、原告は改めて「著しく公益を害することが明らかである」との要件を充足するという具体的事実を詳らかにして主張立証しなければならず、裁判所におかれては、法令違反等の要件に加えてさらに「『著しく』公益を害することが『明らかである』」こと、という何重にも厳格に要件が加重されていることが、国と地方公共団体の対等・協力関係を前提に、憲法上保護される地方自治権の保障を重く見ていることを踏まえ、同要件の審査をなすべきである。さすれば、被告がこれまで主張しているとおり、この公益侵害要件が充足されていないことは明らかとなるのであり、当然に原告の請求は棄却されるべきである。

 第4 結語
 1 本件訴訟は、原告が本件変更承認申請に対する承認処分を、代執行という国の関与の方法としては例外的かつ最終的な方法をもって行うことを目的として提起されたものである。しかし、本件訴訟の提起は、被告の求める辺野古新基地建設問題の解決に向けた対話を求める要望には一切応じることなく、これを無視し続けた上での提起であり、拙速かつ普通地方公共団体の自主性及び自立性を軽視したものとの批判を免れない。

 2 現時点で、国は、普天間飛行場の移設先について「辺野古が唯一」という考えを前提としている。仮に、本件変更承認申請が代執行によって承認された場合、国はますます、普天間飛行場の移設先について「辺野古が唯一」という考え方に固執することになるのではないか。
 辺野古新基地建設への固執は、今後、仮に承認を得たとしてもなお12年以上もの長期にわたって更に普天間飛行場を固定化し、同飛行場の危険性の除去等が遅々として進まないという事態を招来することを意味する。被告が行った本件変更承認申請の審査結果によれば、むしろ12年が経過してもなお普天間飛行場の危険性の除去等が実現しないことさえ危惧されている。本件変更承認申請が代執行によって承認された場合、国をして、合理性に欠ける辺野古新基地建設以外による普天間飛行場の危険性の除去等の方策を、柔軟かつ合理的に検討する機会を失わせ、やみくもに竣工へと突き進ませてしまうことになりかねない。当初 の総事業費が約3,500億円であったものが、本件変更承認申請が承認された場合の総事業費が9,300億円余とされ、あるいはそれ以上に膨れ上がると予測されているにもかかわらず、代執行をもってしても本件埋立事業を遂行しようとする国の態度は、まさに国家として思考停止に陥っていることの証左に他ならない。

 3 一度始められた公共工事が、工事の途中で、様々な問題が発生し、もはや工事を継続する意義が明らかに失われたにもかかわらず、中止されない工事が我が国には散見される。代執行による承認を得てまでして遂行されようとしている本件埋立事業もその一つである。一度立ち止まって事業の合理性・正当性を再検討し、沖縄県民の民意に耳を傾けるべき機会は、大浦湾側の海底に軟弱地盤が発見された時を含めて数多くあったはずである。

 4 代執行訴訟は、法令所管大臣による代執行手続の指示内容の適法性について、裁判所の実質的な審理を求める訴訟制度である。
 今、本件変更承認申請について、その承認をしないことが、むしろ公益に適うことは明白である。国に対し、沖縄県との協議を促すことが、裁判所の役割と信じる。裁判所におかれては、本件変更承認申請が承認されないことによって、著しく公益を害することが明らかとは言えないこと、地方公共団体の住民に甚大な影響を及ぼす事業の実施については、住民の基本的人権の保障や住民自治、団体自治の観点から、地域住民の声を無視しては進められないこと、そして、本件については、国は代執行に頼ることなく、国と沖縄県との対話による辺野古新基地建設問題の解決の道を探ることこそが最善の方法であることを示していただきたい。

視点

【識者談話】具体的反論に説得力 辺野古代執行訴訟に県が答弁書 徳田博人氏(琉球大学教授)

 米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設計画を巡り、国から代執行訴訟を提起された県は、福岡高裁那覇支部に答弁書を提出して国と全面的に争う姿勢を示した …