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<書評>『海と大地と共同の力 反CTS金武湾闘争史』 沖縄の将来構想に示唆


<書評>『海と大地と共同の力 反CTS金武湾闘争史』 沖縄の将来構想に示唆 『海と大地と共同の力 反CTS金武湾闘争史』金武湾闘争史編集刊行委員会 ゆい出版・9900円
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 収録された座談会と論考、整理された資料には、一人びとりが魅力的で、個性あふれる漁民、住民のエピソードが紹介されている。女性、お年寄りが重要な役割を担った。離島苦解消をスローガンに掲げる誘致派住民、そして右翼団体との対立はいまとなっては活劇である。拝み、祭り、ハーリー、伝統行事、芸能は対立で傷ついた地域の人々を癒やし、絆を固めた。

 金武湾を守る会は代表を置いていなかった。金武湾闘争史で崎原盛秀さんは「自分の命(生活)は自分でしか守れない」と書いている。一人びとりが代表の住民は、石油備蓄基地(CTS)建設用の埋め立て計画を撤回させるため屋良朝苗知事との面談を求めて、県庁で座り込んだ。そのようなやり方に革新県政を支える側の知識人から批判の声もあったが、労働者、市民、学生、知識人、県外在住の沖縄青年たち、反公害運動の学者、弁護士、活動家らに支持され、支援の輪が広がった。

 金武湾闘争は白保新石垣空港建設反対運動、辺野古の新基地建設反対運動にも影響を与え、人もつながった。グアム、ベラウ共和国との交流もあった。金武湾を守る会の闘いの前には、ガルフ社の進出を断念させた宮城島土地を守る会の闘い、中城村久場の東洋石油基地反対闘争、さらに石川市のアルミ誘致反対運動などがある。それぞれの闘いを担った人たちはつながっていて、経験と知識が共有された。

 日本本土との経済格差是正を目指して石油資本を中心にした外資導入政策を推進したのは、米軍統治下の松岡政保琉球政府行政主席(最後の任命主席)だが、公選の屋良主席(復帰後は県知事)に引き継がれ、本島東海岸と金武湾の島々に米国、日本の石油関連、アルミ、電力(原発を含む)産業などの設置が計画された。県政のリーダーが替わっても国策のツケを回される行政と党派の利益が優先される政治は続いている。政治・行政と住民運動の境界をどのように越えていくか、沖縄の将来をどのように構想し、実践するか、金武湾闘争史には多くの示唆が含まれている。

 (高嶺朝一・元新聞記者)


 きんわんとうそうしへんしゅうかんこういいんかい 共同代表・崎原盛秀、池宮城紀夫、天願尚吉、照屋寛徳 編集委員・安里悦二、花城清繁、平良良昭、照屋勝則、照屋房子、新垣庄子、上原こずえ、松田米雄。