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【識者評論】「法の支配」損ねた司法 飯島滋明氏(名古屋学院大教授)


【識者評論】「法の支配」損ねた司法 飯島滋明氏(名古屋学院大教授) 飯島滋明氏
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 今月20日、辺野古新基地建設の大浦湾側の軟弱地盤改良工事に向けた設計変更申請の承認を巡る代執行訴訟で福岡高裁那覇支部は、9月4日の最高裁判決を受け入れない玉城デニー知事の対応は「憲法が基本原理とする法の支配」を著しく損なうと判示した。だが「法の支配」を損ねたのは裁判所の方である。

 1933年、ナチスは授権法(全権委任法)を成立させた。国会で成立した法律ゆえ「合法性」はある。ただ、第二次世界大戦後、人権をじゅうりんし、ヒトラー独裁を可能にした授権法に「正当性」はないとされた。ナチスへの反省から「合法性」がある法律などに「正当性」があるかどうか、その判断が世界的に裁判所の役割とされるようになった。

 1789年の革命時に裁判所が反動的役割を演じて伝統的に裁判所不信が根深いフランスでも、第5共和制憲法(1958年)で違憲審査機関「憲法院」が設けられ、法律や政府の行為を違法と判示してきた。人権を擁護する憲法院はフランス国民から信頼を得てきた。

 日本の裁判所はどうか。「法の支配」は、法が人権を保障すること、人権を侵害する法律や政府の行為に対する裁判所の統制を意味する。だが、日本の裁判所は普天間飛行場の危険性を理由に辺野古新基地建設を正当化した。主権国家であることを放棄した判決だ。危険除去なら米軍機の飛行停止と基地撤去を求めればよい。

 米軍は県民の幸福追求権(憲法13条)や平和的生存権(憲法前文など)を奪い、県民を脅かしてきた。人権尊重などを意味する「法の支配」の観点から、裁判所は新基地建設を強行する自公政権の対応を違法と判示すべきであった。
 人権尊重や民主主義、平和主義に必須の地方自治を画餅とする代執行について、十分な審査もせずに命じる判決こそ「法の支配」を損ない「正当性」がない。「正当性」が認められるのは玉城知事の対応である。
  (憲法学・平和学)