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【深掘り】沖縄の若者が「使い捨て人材」に 事情知らず関与も 巧妙化するオレオレ詐欺の実態


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この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 今年3月に那覇市内で起きた「オレオレ詐欺」で、沖縄県警は5月15日、被害女性から詐取金を受け取る「受け子」をしたとして高校1年生の男子生徒(16)を詐欺容疑で逮捕した。「沖縄は、特殊詐欺事件で摘発リスクが高い役割を強いられる“人材”の供給源」。捜査関係者がそう指摘する現状を反映するように、少年は県外でも複数の事案に関与したとされる。

 県内では、事情を知らぬまま犯罪ツールを用意する「道具屋」に使われ、有罪判決を受けた若者もいる。若者がはまり込んだ落とし穴からは、巧妙化する犯罪の実態が浮かび上がる。

「金が欲しかった」

 県警によると、少年は今年3月、知人から「短期間のアルバイトがある」との勧誘を受けた。比較的秘匿性の高い通信アプリのインストールを求められた後、アプリに送られてきた指示に従い現金を受け取る「受け子」として稼働したとみられるという。

 指示役には自身の住所や身分証も伝えていた。少年は県警の調べに「金が欲しかった」と供述しているという。

 捜査関係者は「特殊詐欺の『受け子』や『出し子』など、組織からすれば使い捨ての人間を県内から探す動きは以前からある」と明かす。

地元のしーじゃ(先輩)に誘われて

 沖縄県出身の20代の男性は、19歳だった2018年、関東地方で特殊詐欺グループの一員として活動していた。命じられていたのは、詐取金を引き出す「出し子」の役割。秘匿性の高い通信アプリで指示役と連絡を取り合い、命じられるままに被害者からだまし取った金を引き出した。

 男性は「地元のしーじゃ(先輩)から『東京で住み込みの仕事がある』と誘われたのがきっかけだった」と振り返る。

 「しーじゃ」から指定された日に那覇空港まで行くと、その場で片道の航空券を渡された。

 現地では、グループの仲間とみられる男が待っており、迎えのワゴン車に乗るよう促された。

 4人ほどの同乗者と共に都内のアパートの一室に連れて行かれ、その日から〝仕事〟をさせられた。男性はその後、アパートから逃げ出して警察に自首。グループとの関わりを絶ったという。

ほごにされた報酬

 「犯罪に使われるとは思っていなかった」

 執行猶予付きの有罪判決を受けた本島南部の20代女性は、那覇地裁で今月開かれた公判でそう漏らし、唇をかんだ。

 罪名は、詐欺。

 スマートフォンのアプリを通じて大手都銀の口座を開設し、オンライン決済が可能なキャッシュカードをだまし取ったとする罪に問われた。

 「どうしてもお金が必要だった」。取材に応じた女性は当時の心境を明かした。友人に連れ出された本島南部のあるバー。この場で「友だちの知り合い」として紹介された男が持ち掛けてきた「アルバイト」が犯罪の入り口だった。

 男が、10万円の報酬と引き換えに持ち掛けてきたのがオンライン決済が可能な大手都銀の口座開設。友人に中絶費用が必要だと相談していた時だったという。

 女性は、その数日後にスマートフォンのアプリで口座を作り、キャッシュカードを入手。開設した口座には、女性の知らない間に数百万円単位の入出金があった。捜査当局は、口座が特殊詐欺などの振込先に使用されたとみている。

 2年後のある日。警察官が自宅を訪ねてきた時に初めて、事件の「道具屋」にされていた事実を知った。

 「少しは(怪しいと)思ったが、知り合いの知り合いだから大丈夫だと思った」

 男が口にした報酬が渡されることは、ついになかった。

 県警の担当者は「簡単な仕事で高額な報酬という言葉で誘われても、約束された報酬が得られる保証はない。一度従事したら抜け出すことも簡単ではなくリスクが大きい」と警鐘を鳴らしている。