故郷は那覇空港の中 かつての集落の記憶をつなぐ 字大嶺の「地バーリー」 【どローカルリポート】沖縄  


故郷は那覇空港の中 かつての集落の記憶をつなぐ 字大嶺の「地バーリー」 【どローカルリポート】沖縄   本バーリーを行う字大嶺地バーリー保存会のメンバーら
この記事を書いた人 Avatar photo 高辻 浩之

 鉦の音が響く中、ハーリー衣装をまとった男たちが「ヒヤ、ヒヤ」と小刻みに声を上げ、ハーリー唄に合わせ勇壮に櫂(かい)をさばく。しかし、漕げども漕げども前には進まない。それもそのはず、そこにサバニはない。大海原ではなく陸で行う「地バーリー」だからだ。旧歴5月4日(ユッカヌヒー)の9日、海にまつわる行事が県内各地で催された。那覇市宇栄原の字大嶺自治会館では市指定無形民俗文化財の地バーリーが行われ、訪れた周辺住民ら約300人が、この地の伝統や歴史に触れた。

 字大嶺は現在の那覇空港の敷地内に位置する。海に面した集落は漁業が盛んで、1868年ごろには大嶺の浜で盛大にハーリーが催された。沖縄戦を前に小禄飛行場建設のため日本軍に土地を接収された住民が、戦後に今の那覇市田原付近に移り住み集落を築いた。今も自由に故郷に立ち入ることのできない住民らにとって、地バーリーは望郷の念を思い起こさせ、漁業でにぎわった集落の記憶をつなぐ大切な行事となっている。

 字大嶺地バーリー保存会によると、大嶺の浜は遠浅のため、遠い沖で競い合うハーリーの様子が陸からよく見えなかったことなどから、地域の高齢者や子どもたちのため、陸に戻った漕ぎ手たちが、浜に座り競漕の様子を身ぶり手ぶりで伝えたことが、地バーリーの始まりだとされている。

昭和9年ごろに行われた地バーリー(「大嶺の今昔」より)

 地バーリー開催前日には、集落のあった那覇空港の沖に船を出し、大嶺の男性陣らが追い込み漁を実施。捕った魚は当日、婦人会のメンバーらによって調理され、訪れた人たちに振る舞われた。御嶽での御願バーリーから始まり、トラックに乗り込み現集落を回る道ジュネー、保存会による本バーリーへと続いた。最後は参加者らの無病息災、家内安全を願い地域の人たちも一緒になって櫂を漕ぎ、地域一帯となった盛り上がりを見せた。

 郷友会にあたる字大嶺向上会の當間善吉会長(69)は「(サバニが)慶良間を通り越すほど盛り上がった。伝統行事を通して若い世代にも『大嶺愛』が育まれている。伝統や歴史の継承が進み、地域の和が広がっている」と地域のつながりの強さに、ご満悦の笑みを浮かべた。

 (高辻浩之)

字大嶺地バーリー保存会の本バーリー=9日、那覇市の字大嶺自治会館