辺野古新基地建設の県民投票 識者の賛否は 本紙インタビュー


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沖縄県名護市辺野古移設に伴う新基地建設で護岸工事現場のK1=5日午後、名護市辺野古のキャンプ・シュワブ(小型無人機で撮影)

 米軍普天間飛行場移設に伴う沖縄県名護市辺野古への新基地建設に対し、民意を示す手段として「県民投票」が注目されている。県議会与党などは、県民投票の結果を踏まえた翁長雄志知事による公有水面埋め立て承認撤回を最も強力な対抗手段と位置付けている。行政法の専門家や弁護士が県民投票実施の有効性を語る一方、「県民投票は実施すべきではない」と主張する声も上がっている。県民投票について、辺野古県民投票を考える会の元山仁士郎氏と元愛媛大教授の本田博利氏にそれぞれ聞いた。(本田氏は書簡によるインタビューを掲載)

元愛媛大教授の本田博利氏(左)と辺野古県民投票を考える会の元山仁士郎氏

■撤回の必要性根拠に 元山仁士郎氏(辺野古県民投票を考える会)

 ―昨年12月に県民投票の有効性について学ぶ学習会を開催した。その理由は。

 「知事が『撤回』し、県が裁判で勝訴するには県民投票が必要という話があり、私はそれに賛同している。県民投票は、実際には県民が動かないとなかなかできないので、県民である私が動けば、何か変わるかと思い勉強会を開いた」

 ―県民投票の結果には法的拘束力がなく意味がないという声もある。

 「知事の撤回理由の『公益上の必要性』という大きな根拠になる。裁判や法律的な意味だけではなく、20~30代の若い人たちが、基地問題についてもう一度考える機会にもなる。辺野古新基地建設問題について『賛否どちらもでもない』という人もいる。でも、やっぱり政治や政策って『やるかやらないか』の二択しかない。だから一度、その二択で考えてみようと。いろいろなモヤモヤ感はあるとは思うけど。将来、米軍の事件・事故が起きた時、被害者が自分の子どもやあなたの子どもだった時『仕方ない』と思いたくない」

 ―沖縄は過去の選挙で辺野古新基地への賛否を示してきた。その度に政府に無視されてきた。無力感に襲われることはないか。

 「20年前の名護市民投票や1996年の県民投票を経験した人も、『もうやったじゃん』と、疲れている感じもあるかと思うが、単純に自分自身がまだ経験していないということもある。今後40、50年生きるのは自分たち世代。年配の方も大変苦しいとは思うが、もう一度なぜ反対なのかというのを若い世代に伝えて、また私たちは20、30年後に同じように自分たちの時はこうだったと、子や孫に話す。沖縄の民主主義は今までそうやって続いてきた。民主主義を深めるきっかけになればとの思いもある」(聞き手・仲井間郁江)

■選挙で民意示された 本田博利氏(元愛媛大教授、行政法)

 ―県民投票の結果を根拠にした埋め立て承認撤回についてどう考えるか。

 「県民投票の実施は『百害あって一利なし』だと考える。時間とお金の壮大な無駄遣いだ」

 「住民投票は本来、首長選などの後に地域を二分するような課題・争点が生じた際に民意を問うものだ。辺野古新基地建設の是非は知事選や国政選挙で繰り返し争点に位置付けられ、そのたびに県民の強い反対の民意が示されてきた。県民投票のために膨大な作業とお金を費やして、改めて民意を問う必要があるのかがそもそも問われる。知事選と同日に実施するのであれば『政治利用』との批判も出かねない」

 「県民投票の結果を受けての撤回なら、次の知事選の後になる。『任期中に撤回する』という公約に反することになる」

 ―ほかに反対の理由はあるか。

 「県民投票をもとにした撤回の場合、実施までの約10カ月間、工事を止められないことになる。できるだけ工事を進めたい政府にとって願ったりかなったりの展開だ」

 ―知事は撤回実施を明言している。何を根拠とすべきと考えるか。

 「撤回は、国への承認の留意事項違反すなわち違法行為に対する『取り消し撤回』と、県民投票に基づく『公益撤回』の2種類がある。沖縄防衛局による工事は違法だらけであり、そのことを理由に今すぐにでも取り消し撤回が可能だ」

 「公益撤回の場合、国の側に“落ち度”はないことになるので、撤回と引き換えに補償の問題が生じる。行政法の通説や最高裁判決からも明らかだ。1千億円単位の補償金を県が調達しなければならなくなる。補償の問題をきちんと県民に説明しないまま、県民投票を実施する法的なリスクは極めて高い」(聞き手・当銘寿夫)