喜屋武貞子さん(84)=那覇市=の母、稲嶺千枝さんが久志村(現名護市)の山中で出産した後、家族や親戚は米兵に捕らわれます。
《鉄砲を持った米兵たちが現れた。二世らしき兵士が「みんなそこに並べ」と言った。山道に二列くらいの長い列ができた。ひっそりしていた山の中から、いつの間にか大勢の人が出てきた。普段は声一つ聞こえなかったのに。どこに、こんなたくさんの人が隠れていたのか。》
山中に大勢の人が隠れていたことを知り、喜屋武さんは驚いたといいます。
「米兵が『戦争は終わったから出てきなさい』と呼びかけると、山中では物音もしなかったのにいっぱい人が出てきました。畑道にできた列は100メートルくらいありました」
山中では日本兵に会うことはありませんでした。「日本兵も隠れていたんでしょう。でも全然見ませんでした」と喜屋武さんは語ります。
米兵は子どもたちにチョコレートを配りました。
《チョコやガムが配られ、子どもたちは目を輝かせた。親たちはそっとささやいた。「食べるんじゃないよ。毒入りかも…」。米兵たちは自分で食べて見せた。》
喜屋武さんは「本当は食べたかったけれど、毒が入っているかもしれない。でも、捨てるのももったいないので、そっとしまいました」と振り返ります。