〈ドクターのゆんたくひんたく〉164 早期肺がんの手術治療 切除範囲縮小し機能温存


〈ドクターのゆんたくひんたく〉164 早期肺がんの手術治療 切除範囲縮小し機能温存
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 肺がんは、日本人の部位別がん死亡数1位(男性1位、女性2位)であり、まだ治療課題の多い悪性疾患です。肺がんの治療は大きく分けて、(1)手術(2)放射線治療(3)薬物療法―の三つの柱があり、肺がんの詳細な種類(組織型や遺伝子変異などの違い)や進行度などに応じて、単独もしくは組み合わせた治療が行われます。

 呼吸器外科医が診療に携わることの多い早期肺がんは、手術が最も根治性(がんを治す力)の高い治療ですが、患者さんの中には、肺切除による体力の低下や生活の質の低下を懸念される方もいらっしゃると思います。

 肺切除術に耐えられるかは、普段の生活状況や併存疾患の確認、心肺機能検査や運動負荷試験などを行い判断します。適切に術前評価を行い手術適応や切除範囲を決定することで、術前の体力が十分であった大半の患者さんが、元の社会生活復帰を果たすことが可能となっています。

 また最近では、根治性を損なわずに肺の切除範囲を縮小することで術後の肺機能を温存することも可能となってきています。これまでは、肺がん手術における標準治療はがんのある肺葉を切除することでした(イラスト参照)。一方で、体力面や呼吸機能に問題があり肺葉切除術は侵襲が過大だと判断される場合には、より切除範囲を狭めた区域切除術や部分切除術を施行することもあり(縮小手術)、この場合、肺葉切除術と比べて根治性は劣ると考えられていました。

 しかし、2022年に日本臨床腫瘍研究グループより報告された臨床試験結果で、腫瘍径が2センチ以下で、画像上リンパ節転移や遠隔転移のない小型肺がんでは、区域切除と呼ばれる肺葉切除より小さな範囲の肺切除でも根治性が十分に担保されることがわかりました。

 このため最近では、以前よりも積極的に区域切除術が行われることが増えています。がんの根治性を損なわずに呼吸機能を温存し、術後の生活の質の向上に貢献することが期待されます。

 (仲宗根尚子、沖縄病院 呼吸器外科)