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「まりやハウス」閉所 2年3カ月、入居者14人を出産まで見守る 育児と自立、両輪の支援が課題


「まりやハウス」閉所 2年3カ月、入居者14人を出産まで見守る 育児と自立、両輪の支援が課題 閉所となる「まりやハウス風のいえ」2階の居室スペース。2人で利用できる居室が3部屋並ぶ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 居住先のない妊産婦のための宿泊型居場所「まりやハウス風のいえ」が9月末に閉所する。開所した2021年当時、県内で妊産婦受け入れに特化した居場所を提供する施設はなく、おきなわ子ども未来ネットワークは「道がなければつくればいい」と施設立ち上げに踏み切った。21年5月の開所から今年8月下旬までに14人の女性が入居し、それぞれの状況に合わせながら出産まで支えてきた。

 ■子ども同伴入居も

 施設は最大6人が入居でき、日中は看護師の松田逸子さん(46)や助産師の儀間さやかさん(40)が入居者を見守り、産婦人科受診にも同行した。調理スタッフが食事を準備し、夜間は緊急時に呼び出すオンコール体制を取った。

 女性が子ども同伴で入居したこともあった。出産後は新生児の1カ月健診を目安に退所準備に移行した。平均滞在日数は79.4日(最短7日、最長169日)、入居女性は17~35歳で平均23.9歳だった。

 入居理由はさまざまだ。パートナーが妊娠を知ったことで住む場所を失った人や、未婚で出産することに家族から反対されて住まいを転々とし、病院受診ができていない事例もあった。

 ■複雑な家庭環境

 入居後はまず病院に同行することから支援を開始した。胎児の発育状況を確認するなど、病院側と連携を図った。出産後も沐浴(もくよく)やベビーマッサージの方法などを教え、ベビー用品を支給した。運営は助成金や寄付などでやりくりした。

 松田さんは「母子家庭や父子家庭、祖母に育てられた子など、家庭環境が複雑な場合が多かった」と語る。

 性暴力を受けたことがトラウマ(心的外傷)となり、外が明るくなってからしか寝付けない入居者もいた。

 儀間さんは「『早起きが大切』など、医療者や支援者側は理想とするライフスタイルを求めてしまうが、そこはいったん置いて、彼女たちのペースや選択に寄り添い、どう生きていけるか一緒に考えることが大切だ」と話す。

 ■行政、民間ともに

 課題も見えた。居場所のない女性たちを産後1カ月まで支援するには、医療面や心理面など、多くの支援やケアが必要になった。行政や幅広い職種が連携する必要性を痛感した。

 また女性たちの退所後の行き先を確保することも困難だったという。おきなわ子ども未来ネットワーク代表理事の山内優子さん(76)は「若年出産した女性が育児をしながら自立するためには、育児と自立、両方の支援に特化した施設や環境が求められる」と訴える。

 今後も、LINEで妊娠に関する相談を受ける「県若年にんしんSOS」など、複数の支援事業に注力する。避妊が必要な女性たちに子宮内避妊器具(リング)費用を助成する「リングキャンペーン」も継続。運転免許取得を希望するシングルマザーに取得費用を全額支援する事業は、県からの予算を活用した22年度、6人枠に80人超の応募があった。本年度以降の継続に向けて取り組んでいる。

 山内さんは、妊産婦支援の必要性を強調した上で「県の事業委託先も若年出産の女性を支援しているところで安心できる。県には民間の柔軟性を尊重しながら事業を進めてほしい」と語った。

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相談8割10代から

 おきなわ子ども未来ネットワークがLINEで相談を受け付ける「県若年にんしんSOS」に、2022年度は578件の相談が寄せられた。前年度(239件)のおよそ2.4倍で、相談事業開始以降、過去最多となった。10代からの相談が8割近くを占めており、「まりやハウス風のいえ」で出産の支援につなげた事例もあった。

 同ネットワークが事業報告書で公表した。県若年にんしんSOSは19年に開始し、21年度から県の委託事業となった。助産師や保健師などのサポーターが相談者の希望に応じて妊娠検査薬を無償提供するほか、産婦人科受診に付き添う支援も行う。

 年齢別で見ると「不明」の54人を除き、17歳が137人で最も多かった。18歳103人、16歳86人、19歳60人と続いた。12~19歳の10代からの相談は全体の約78%だった。主な訴えは「生理が遅れている・こない」126件、「妊娠の可能性について」86件、「妊娠している」33件などだった。避妊の有無は「なし」154件、「あり」47件、「不明」377件だった。

 相談中に生理が来た事例が25件あった。早い段階での相談が定着しつつあり、避妊の指導につなげられるとして、山内優子代表理事は「企業や学校現場の協力もあり若い世代の間で窓口の周知が進んでいる」と語った。

 夏休みが明ける9月以降相談が増える傾向にあり、12月から2月には月60件以上の相談が寄せられた。サポーターによる妊娠検査薬の提供は8件、病院への同行は17件だった。

 (吉田早希)

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