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辺野古「代執行」提訴 苦悩する県知事の姿に交錯する思い 新基地に揺れ続ける名護市で当事者に聞いた


辺野古「代執行」提訴 苦悩する県知事の姿に交錯する思い 新基地に揺れ続ける名護市で当事者に聞いた
この記事を書いた人 Avatar photo 増田 健太

 名護市辺野古での新基地建設に絡み、国土交通相は沖縄防衛局が申請した地盤改良工事の設計変更を県に代わって承認するため、5日に代執行訴訟を提起した。4日に時事実上、不承認とした玉城デニー知事の苦悩をよそに、粛々と対応を進める政府。その強硬姿勢に憤り知事を支える決意、普天間飛行場の危険性除去への願い、進まぬ状況へのいらだち―。県と国との争いが新たな局面を迎え、県内ではさまざまな思いが交錯した。

「どちらにしても決断すべきだった」 元名護市長・比嘉鉄也さん(96)

比嘉鉄也さん

 1997年12月24日、首相官邸で橋本龍太郎首相(当時)ら政府首脳と向き合った比嘉鉄也名護市長(当時)は、辺野古への海上基地建設の受け入れを決断、表明した。「最後に」と付け加え、首相からペンと紙を借り、琉歌を書いて手渡した。「義理んすむからん ありん捨ららん 思案てる橋の 渡りぐりしや」

 海上ヘリ建設の賛否を問う住民投票で、反対が上回る結果が出た直後の決断だった。義理や迷いはある中で「あの世」と「この世」の分かれ道にあるという、思案橋(しあんばし)に差し掛かっていると、自身の境遇を表現した。そして「やはり渡るしかない」と苦しい思いを伝えた。振興策を閣議決定することの確約を得て、次世代へと託した。

 基地の受け入れを表明、その直後に名護市長を辞職し、25年余りが過ぎた。比嘉さん(96)は、設計変更の承認・不承認を巡って、悩みを深める玉城デニー知事の姿を新聞紙面上で知り、97年当時の自身と重ね合わせていた。

 「県職員に『(承認)やむなし』という意見があって、知事も相当に苦労、悩んだと思う」

 ただ、判断を示さないままに、代執行訴訟へと持ち込まれた現状に触れ「拒否にしても、受け入れるにしても決断すべきだったのではないか」との考えを示す。「最高裁判決も出て、最後に決断できる場面だった。代執行となると県が口を挟むことができなくなる。その前に『県の指導・助言』が入れられる機会を再度申し入れるなど、粘り強い交渉が必要だった」と語った。

 自身の「決断」から四半世紀が過ぎ、当時政府と約束した振興策が形になったと実感しているという。基地問題で揺れ続けてきた名護市や県を見てきた立場から「これからは子どもの福祉や教育を充実させなければならない」とし、自身が政治家として、受け入れた判断に「後悔はない」と強調した。 (池田哲平)


「負の遺産受け入れてはいけない」 元平和を守る会代表・西川征夫さん(79)

西川征夫さん

 名護市の辺野古区公民館で1997年1月16日、勉強会「海上基地問題を考える会」が開かれた。参加者の一人に当時52歳だった西川征夫さん(79)がいた。宜野湾市の米軍普天間飛行場より基地機能が強化されることに驚き、恐怖を感じたという。「絶対に阻止しなければならない」。区民数人と話し合い、11日後に住民組織「命を守る会」を立ち上げた。

 辺野古で育った。40歳で始めた塗装業は軌道に乗り、次いで「辺野古金物店」を創業した。初めに新基地建設の話を聞いた時には「隊舎ができるんだろうな、仕事が増えるかな、と安易に考えていた」と振り返る。

 それから基地の弊害について識者から話を聞き、勉強会を重ねた。「負の遺産を受け入れてはいけない」と確信し、辺野古の浜に簡易な建物を設置し、座り込んだ。

 26年が過ぎ、70人いた会員の多くは阻止の実現を見ずにこの世を去った。今も生きているのは10人だ。会は2015年に解散したが、気持ちは設立時と変わらない。「辺野古区民は空も陸も海も取られ、騒音に苦しむのではないか」。故郷の行方を憂う。

 年長者がやってきたように、自身も区民に声をかけ続け、建設反対の声が全県に広がるよう期待してきた。国の代執行訴訟に「強引なやり方だ」と静かに憤る。「歴代の知事はだまされ続けてきた。今回の設計変更も、埋め立てを承認した仲井真弘多知事ですら知らされていなかった工事だ」

 平和学習の依頼は絶えない。講師を200回以上務め、修学旅行生など6千人に思いを伝えた。金物店は廃業し、店を改装して本を置き、誰もが学習できる場にした。訪問客を迎えながら、阻止実現を信じて待つ。

 設計変更を承認しなかった玉城デニー知事に対し、西川さんは「辺野古区民に建設を止める権限はない。知事を支えるしかない。反対を貫いてほしい」と話した。 (増田健太)

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