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基地政治学から見る沖縄 世界に前例ない先駆者 波照間陽(成蹊大学アジア太平洋研究センターポスト・ドクター)<女性たち発・うちなー語らな>


基地政治学から見る沖縄 世界に前例ない先駆者 波照間陽(成蹊大学アジア太平洋研究センターポスト・ドクター)<女性たち発・うちなー語らな>
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 今回は、海外の研究者がどのように米軍基地を抱える沖縄を分析しているか紹介しよう。特に2000年代以降に発展してきた「基地政治学」について話したい。

 アメリカは約80の国と海外領土に750もの軍事施設を有している。その数は大使館や領事館などの外交施設の276カ所と比べると約3倍になる。外交的ルートのみならず、軍事的プレゼンスを通して世界に関与していることを示している。

 世界に点在する米軍基地や駐留米軍は住民との摩擦を生み出してきた。それが基地問題になり、政治的問題に発展することがある。アメリカと受け入れ国の間の交渉や取引だけでなく、政府や住民、利益団体、運動団体といったさまざまなアクターが関わる政治的なプロセスや相互作用に注目するのが「基地政治学」だと私は理解している。

 大学院に進学して出合った英語の論文に衝撃を受けた。米コロンビア大学のアレクサンダー・クーリーとキンバリー・マーテンの共著「基地の動機―沖縄反軍国主義の政治経済学」という論文は、1990年代に沖縄で反基地運動が盛り上がり、かつ反基地感情が残っているにもかかわらず、なぜ基地は維持されているのか、という問いを立てた。まさに私が持っていた疑問の一つだった。沖縄の基地を維持させる利益団体や政治的仕組みを説明しており、感情的にではなく学問的に沖縄の基地問題を理解する一助となった。

 2008年に前述のクーリー著「基地政治学―民主的変化と在外米軍」とケント・カルダー著「米軍再編の政治学」(和訳版もある)が出版されて以降、米軍基地が政治問題化した国や、問題が顕在化しない国、また同じ国でも基地が政治問題化する時期とそうでない時期、反基地運動の成功と失敗といったバリエーションを説明しようとする研究がなされてきた。

 これらの研究によると、政治問題化した基地の問題が解決されると、残りの基地は安定的に維持される傾向にある。例えば、スペインでは一つの空軍基地が国外移転された後は、残りの基地が争われることがなくなった。韓国では、激しい反対運動があったにもかかわらず、基地の拡張で土地を追われる住民に対する国による補償がなされ、土地の接収が進んだ。その後は基地の再編計画が着々と進行している。

 私は沖縄を世界に前例のない先駆者だと捉えている。国の補償が問題の解決になっていないこと、琉球・沖縄の自立をめぐる闘いが脈々と続いていること、沖縄を取り巻く国際環境が厳しくなっていること、ヘイトや無気力・無関心という問題も絡んできていること。沖縄の基地問題は今まで以上に複雑になってきている。沖縄には海外からの視線が引き続き注がれるだろう。