名護市辺野古の新基地建設を巡り、岸田政権は沖縄県知事の権限を奪う「代執行」に踏み切ることを表明した。大田昌秀知事時代の1995~96年、「職務執行命令訴訟」(代理署名訴訟)で県側の弁護団事務局長を務めた弁護士の池宮城紀夫さんは「国が決めたことはしょうがないとなれば、民主主義そのものが破壊されていく」と危機感を訴えた。
那覇市の事務所で「代執行」の一報を聞いた池宮城さんは「表明したんですか」とため息をついた後、「沖縄は日米両政府の植民地ですか」と問いかけた。「民意をずっと踏みにじっている。あからさまな沖縄に対する差別的行為は許せない」
職務執行命令訴訟は、地主が契約を拒んだ軍用地について、地主に変わって土地調書に署名押印する代理署名を拒否した当時の大田知事を国が提訴したものだ。
最高裁は96年、知事の署名拒否を「著しく公益を害する」と判断。米軍用地の強制使用に反対という県民世論を背景にした知事の主張を退けた。池宮城さんは、「三権分立なのか」と言った大田知事の言葉に「怒りを感じた。司法が行政に従属しているのが日本の実態だ」と振り返る。
2000年の地方分権一括法の施行で、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」に変わった。それにもかかわらず、国は今回、代執行に踏み切った。
「地方自治を尊重するべきだという憲法に基づけば、代執行は本来認められないはずだ。憲法に反する行為で、地方自治と国が対等な関係という法律改正さえ無視した対応だ。米軍に提供する基地を造るために、沖縄県民の権利、権限を無視している」
池宮城さんは、今回の代執行が「先例」となることを危惧する。
「今後、国の政策に反するような地方自治体の政策は全部、代執行でつぶせるようになる。悪影響は大きい。地方自治が踏みにじられていく悪例の端緒になり、憲法上の問題としても禍根を残していくのではないか」
いま必要なことは、地方自治や民主主義とは何か、と問い直すことだと池宮城さんは言う。
「憲法を無視し、地方自治をつぶしていく政治を国民が『おかしい』と変えていくのか、それとも許容するのか。これは『最高裁が決めたから守るべきだ』という表面的な理屈で判断するような次元の問題ではない。『国が決めたことはしょうがない』と全部受け入れていく地方自治では、民主主義そのものが破壊されていく」
(南彰)