prime

国の計画を動かした「新潟」と「徳島」 住民ら「草の根」で民主主義守る <国策と闘う>


国の計画を動かした「新潟」と「徳島」 住民ら「草の根」で民主主義守る <国策と闘う> 1996年に原発の賛否を問う住民投票を実現した笹口孝明元巻町長=2018年12月、新潟市
この記事を書いた人 Avatar photo 中村 万里子

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、2019年の県民投票などで県民は辺野古反対の民意をこれまで幾度も示してきた。しかし国は工事を強行し10日には大浦湾側の工事に着手した。沖縄では日本の民主主義に失望感が広がるが、県外ではかつて、住民投票によって国策を動かした人たちがいる。経験者らは「住民の意思を尊重すべきだ」と声をそろえる。

 人口約2万8千人いた新潟県の巻町(現在の新潟市)は、東北電力の原発建設を35年越しに阻止した。1971年に計画が発表された。海外では、原発事故が相次ぎ、その安全性に疑念が高まる中、主婦らが動いた。

■データ基づき主張

 「巻原発・住民投票を実行する会」を発足し、自主管理の住民投票や町長のリコール運動などを経て同会代表の笹口孝明さん(75)が町長に就任した。96年の住民投票で6割が反対した。

 笹口さんは「推進派は、東北電力を含め『国が言うから安全』『事故は隕石(いんせき)落下ほどの確率』などと主張し、反対派はデータに基づき論理的に主張した。原発の金に頼る必要がないと考える町民も多かった」と振り返る。

■辺野古「不当」

 それでも国は原発を押し付けようとした。知事や東北電力、担当庁のトップに会ってもらえず、交渉ができない。世論形成の難しさを痛感する中、考えたのが建設予定地の中の町有地の反対派住民への売却だった。推進派に訴えられたものの最高裁で勝訴し、東北電力は土地取得を断念し、計画を取り下げた。

 笹口さんは辺野古を推し進める政府に憤る。「極めて不当だ。住民の幸せは住民自身が獲得するもの。沖縄の住民意思は確定している。学識経験者も難工事だと指摘している。国は立ち止まって耳を傾けるべきだ」

■“国ハラ”

吉野川を背景に「自治で勝ち取った」と語る住民投票運動の事務局を担った村上稔さん=2018年12月、徳島県名西郡石井町

 いったん始まれば止めることが難しい公共工事。しかし旧建設省が91年に着手した吉野川可動堰建設事業は、2000年に住民投票が終止符を打った。江戸時代の石積み「第十堰(だいじゅうぜき)」を取り壊し可動式ダムを建設する計画だった。住民投票運動の事務局を担った、沖縄国際大沖縄経済環境研究所特別研究員の村上稔さん(57)=徳島市=は「吉野川と辺野古は同じような構造だ。吉野川も2千億のダムを造らないと堤防決壊など大変なことが起きると押し付けようとした。一方的な価値観を押し付けるのは国によるハラスメント“国ハラ”だ」と指摘する。

■9割が反対

 徳島市議会で住民投票条例は否決されたが、市民は市議選で議会勢力を逆転させ、住民投票にこぎ着けた。反対は9割に上った。民主党政権下で計画は正式に中止され、水害は起きず美しい吉野川は保たれた。草の根の運動が国策を止めたことに「民主主義の魂を抜かれずに済んだ」と語る一方、沖縄は「何度民意を示しても仕方ない、と元気がなくなるのが問題」と県民の心情をおもんぱかる。「国民は沖縄の民意にもっと敬意を払い、自分自身の問題として考えるべきだ。沖縄はやるだけやった。沖縄以外から動きが出てこないといけない」。その問いは自らに突き付けられていることも自覚している。

(中村万里子)