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「100%勢いで」出版社を起業 「鬱の本」が話題に 点滅社の屋良朝哉さん<県人ネットワーク>


「100%勢いで」出版社を起業 「鬱の本」が話題に 点滅社の屋良朝哉さん<県人ネットワーク> 「鬱の本」を出版した合同会社点滅社の屋良朝哉さん=東京都小金井市
この記事を書いた人 Avatar photo 斎藤 学

 東京都心から山梨県方面へ走るJR中央線の路線上に高円寺はある。中央線カルチャーの代表格ともいわれる街。芸人が好んで住むのも特色で「夢追い人に寛容な街」とも評される。

 そんな街にあこがれて21歳の時に上京した。県内大学に通ったが、「大学にはあまりなじめなかった。どう生きていいのか分からなくて」。お決まりの進学、就職スタイルにははまらない、はまれない。煩悶(はんもん)の末の行動が上京だった。「沖縄は好きですけど脱出する感じでした」

 とはいえ、誰しも簡単にやりたいことが見つかる訳でもない。起業をしたり配達員をやったりと職も転々。長続きしない仕事の合間は「深夜徘徊(はいかい)と音楽を聞く。その繰り返しで一日が終わるような感じでした」

 社会に居場所がない不安感。就活をしても「ことごとく落ち続けた」。ダメージは大きい。「この社会に俺は必要がないんだなと。はっきり体感で分かって…」。それで何かしないといけないと思った時。起業をするなら何か、自らに向き合った。「僕を今まで生かし、心を支えてくれたのは本や音楽や漫画といったカルチャー。それなら恩返ししようと。100%、勢いで出版社をつくった」と言う。

 初の書籍は「ニーネ詩集 自分の事ができたら」。ニーネは武蔵野市で結成したスリーピースバンドだ。歌詞を1冊目にと決めていた。書籍の帯にはこんな台詞(せりふ)がある。「普通にやるのも全然楽じゃないぜ」。世知辛い時代に対抗するアンチテーゼだ。

 その後は歌集「incomplete album」、漫画選集の「ザジ」を出版した。3冊の書籍を出版し4冊目が「鬱(うつ)の本」。共感を呼んで増刷となっている。詩人の谷川俊太郎さんや小説家でミュージシャンの町田康さんら84人が寄稿した。

 自らもその本に寄稿した文章がある。「ぼくの精神薬」との見出し。精神科に通う自らを記した。持参する本が寺山修司の「人生処方詩集」。「読者の悩みや心の傷に合わせて、それに効く詩が紹介されている」と言う。本が持つ力強さを感じ、病む精神への配剤として、そして「自分と似ている誰かを助けたかった」との思いを込め「鬱の本」は誕生した。

 今後に思い描いているのは「音楽レーベルをつくったり、映画の復刻をしたり、ロックフェスの主催をしたり」とカルチャー全般に関わること。書籍の重版で今は多忙な毎日。率直に言う。「いつか週休5日になりたい」

 (斎藤学)

 やら あさや 1994年3月生まれ。西原町出身。高校を卒業後に県内大学に入学したが21歳の時に上京し中退。東京都八王子市、神奈川県などを転々とし2022年にふたり出版社「点滅社」を小金井市に立ち上げた。今後は短歌集や私小説にも挑戦したいという。