195ページの単行本がしんどい人のしんどい時に寄り添う。小さなお守りになればとの思いを込めた書籍「鬱(うつ)の本」が昨年12月に発売され、共感を呼んでいる。編集したのは西原町出身の屋良朝哉(あさや)さん(29)と神奈川県出身の小室ユウヤさんらだ。書籍には詩人の谷川俊太郎さんら著名人もエッセーを寄せ、つらい人の肩に手を添える。
「本を読めない時に読む本」という。書籍の発売元は「ふたり出版社」を自称する合同会社の点滅社(東京都小金井市)。屋良さんが代表を務める。自身も鬱にある当事者だ。それだけに「自らが助けられたものを次の世代に伝えていく」。そんな思いを出版の根底に据える。
それが共感を呼んだのか。「鬱の本」は初版で5千部を発行。「初版が約2週間でなくなり」現在は2刷(8千部)となって好調な売れ行きだ。
読者の共感を集めたのは何か。屋良さんは「僕が必要な本だと思った。こんなに売れるとは思わなかったけど、みんな、疲れて傷ついているんだなというのが分かった」と言う。
鬱の本に寄稿した84人には小説家でミュージシャンの町田康さんや文芸評論家の切通理作さん、ロックミュージシャンで作家の大槻ケンヂさん、小説家の山崎ナオコーラさんらも。多くの人が鬱に悩まされた体験などを寄せた。屋良さんも自身の体験を交えて自身の文章を収録した。
1編が千字程度のエッセーを寄せてもらい、見開き1人分ずつを掲載した。執筆者は「僕が好きな人にダメ元でラブレターのようなメールを送って寄稿をお願いした」と言う。屋良さんは今後も「私小説など文芸系に取り組んでみたい」と話した。
社名の点滅社は、屋良さんが好きなバンド「筋肉少女帯」の曲「サーチライト」の歌詞からとって命名した。「日々を静かにおもしろく照らす本を」との願いが込められている。
(斎藤学)